幻想
白妙甘美な洋菓と彼女。(スーダン・田中眼蛇夢)
※お相手は田中くんです。大変有り難い事にこちらもキリ番リクエストにて頂きました!(美咲様、有り難うございます…!!)
※甘甘なお話をご希望、という事でいらっしゃいましたので…なんというか、甘いお話、になっているはず…です(だからリクエストに忠実に応えろや)
※主人公ちゃん設定はございませんので、皆様にて可愛い子に仕上げて頂けましたら嬉しい限りです。
*****
ピンポーン。
突然の来訪者を告げる、何とも間延びしたその電子音。
それは常住としては、俺様にとって警醒以外の何物にも成り得んが、
刻下、今し方だけは、待ち侘びたその刻が幕明の報せとなる。
「…みょうじ…。」
『…田中くん、こんにちは。』
にこ、と唇に、美しく弧を描き笑うは愛しき彼女。
「…入れ。」
うん、と軽やかに従って、境界を彼女が越えていく。
そして我が空間への唯一が入口を閉じ封じれば、俺様が結界の内。
他が魔障も妨碍も、及ばん地が構築されていく。
…拠って、まぁ…
晴れて、二人きり、という…訳だ、な。
その現況を深と思惟し意識するに届けば、俺様が闇に潜むそれと対峙する事となる為…
仔細を語るは避けるとしよう…。
…そのような潜考が漏れ出てしまわんようにと、
彼女の目線から外れたその隙に、ストールをつと上げる。
徐らと彼女へと向き直れば、
差し出されるは純白なるパンドラの箱。
『あのね、田中くん…実はケーキ、作ってきたの。』
一緒に食べよう、とにこやかに渡されれば、
それすらもどこか至福で、
(…やはり、備えあれば憂い無い、な…。)
上げておいたストールの、平静を保つが助けを甘んじて受けておく。
しかし、創った、とは…そういう、事なの、だろうか…?
淡く思い過ぎる想望のまま、疑問を呈す。
「…みょうじ、創ったというのは…真、か?」
『うん、私が…花村くんに手伝ってもらって作りました。
…だから見た目とか、味とか…あんまり期待しないでね?』
ごめんね、とさも済まなそうに言う彼女。
喜びこそすれ、決して気落ちするような事は無い。
譬え不格好なそれだとしても、殊更と彼女が創った経過を語るようで、愛おしくすら思えるところが本心だ。
…だが彼女の声が生む他の男の名には、厭が応にも強く反応してしまい、投げ掛ける言葉は全く別のそれを指していく。
「…花村、と…?」
二人で、か…?
その問いは喉元に残し留めるが、自らの声の重低さに、何も掩い暈かせていない事を痛感する。
『…うん?』
そうだよ、と。
平然と明白に答えられれば、撚り入る眉間が顕著となり、
『……?
あ、もしかして…やきもち、妬いてくれてるの?』
…それを彼女に悟られる不覚と為る…。
『ふふ、ご安心ください。
二人でじゃないよ、午前中は女の子達でお菓子作り教室だったの。』
だから、わいわいみんなで創りました。
と手を口許にそろと当て、唇に描く弧を長くして微笑まれれば、
その真偽を確かめるまでもなく、全て許してしまう心地になってしまう訳だが…。
「…そうか、ならば…良いが、以後は…俺様に憂心を抱かせる様な事は、慎め…。」
すっと目線を流し、憤りの片鱗を見せるのは、
俺様が矜恃を保つ為ではなく、
その切諫を彼女に重く受け止めてほしい思いが強いのだが、
『…はい、ごめんなさい。気を付けます。』
と、どこか嬉しそうな彼女の様子に、真意が伝わっているかは難しいところだな…。
まぁ、そんな思量すらも、今この刻には阻害だろう。
先の事は置き、彼女との刻に興じる、か。
「…みょうじ、適当に掛けていろ。」
『うん。』
すとん、と彼女が腰を下ろすのを目視して、
彼女より預かった純白たるパンドラが箱(中身は甘き洋菓、らしいが)を手にして背を向ける。
――
芳醇たる香が立つ漿液を二杯、
そして箱を開けたれば、現れた二つの清白たる洋菓を食器へと移し、彼女の元へと持ち赴けば、
つい先刻まで俺様が読み耽っていた魔獣書(動物図鑑)に、
ふんふん、と見入るみょうじ。
…どうやら、ジャコブヒツジの頁、のようだな…。
「…みょうじ…観てみたい、か?」
彼女の支障とならんよう、机上の隅へと洋皿を置き、隣へ静かに座す。
『えっ観られる、の?』
ぱっと顔を輝かせ、俺様へと期待の眼差しが向く。
「…ああ、かの島国(日本)でも飼育している魔獣園があるからな…。」
無事に戻った暁には、
と、更なる先の約束を諳んじれば、
『うんっ!楽しみだね!』
一層に華と笑う彼女が可愛らしい。
…本当に、愛らしい、な…。
この修学旅行と仮初めを語る試煉が後も、彼女と共に在る行先が開けた事に、
それを受けた彼女の笑顔に、
緩み上がる頬は尚も隠しつつ。
「ああ、そうだな…。」
この交わす一語すらも慶福だと、密やかに思う。
――
その後もみょうじと俺様が間に魔獣書(動物図鑑)を置き、
芳醇たる香が立つ漿液と白妙甘美な洋菓を傍らに、
それ達を咀嚼しながら共に見入る。
…行儀、という観点ではあまり褒められた様ではないが…
『ねぇ、田中くん…この子はどこかに居る?』
未だに瞳を爛々と輝かせる彼女の好奇心という大事の前では、
それも小事というものだ。
「ああ…其の魔獣ならば少し遠き道程になるが…。」
こうして、多くの魔獣園の名を挙げれば、そこも行きたい、と。
…とても一日という人間が刻の縛りでは、困難な処も多々あるのだが…果たしてそれを、解って言っているのだろう、か…。
(…みょうじ、それは昼夜と問わず…
俺様と共に居る事となるのだぞ…?)
ちらり、と横目で彼女の姿を探れば、依然として魔獣書(動物図鑑)へと気を奪われている。
…俺様が隣に居る、というのに…
それすらこうも意識されん、というのは…どうなのだ…?
どこか、息を吐き捨てたい想いが差すものの…
それでも彼女を視界から外すのは惜しかった。
そしてそのまま彼女をひたと観れば、
彼女の手が銀が破魔具(フォーク)へと伸びる。
恐らく白妙甘美な洋菓を食もうとしているのだろうが、
その瞳はまだ魔獣書(動物図鑑)に預けられており…
ものの見事に目測を誤った彼女の頬へ、
べちゃ、
と、洋菓がぶつかり、
ぽて、
と洋皿へと、堕ちて、いく。
…。
…その様は…なんと、いうか…
…どうにも、俺様が闇に潜む、それを…目覚めさせるような、危うさが、あって…だな…?
これ以上は、と解りながら、も…
瞳が、離せん…のだ…。
『…あ。』
と、気付いたらしいみょうじが、
小さな舌でぺろ、とその甘き乳白を舐め取ろうとする
。
その、舌遣い、一つまで…
なん、とも…言えん…。
…が。
それでも全ては取り去れず。
気になるらしいみょうじがその辺りを指で軽く浚い、
その負けじと白い指先に付いた甘き乳白を、口へと運ぶ。
…そ、の…状景、すらも…
…俺様の闇に、潜むが、それを…がくと揺り起こすかのような、衝撃…が、だな…?
更に、そこまでしながら、彼女の頬に、まだ残る、甘き乳白の…破壊、力…。
い、や…
…これは、もはや…瞳の毒に、他ならん…。
そして鼻先を掠めていく、この空間を充満していく甘々とした、馨。
粘膜を刺激し、脳髄までも、蕩けさせるべくと侵入してくる…。
これは…彼女が為に、も…
「…みょうじ。
…何だ…その…まだ、残っている、ぞ…。」
少々視線を逸らし、熱が迸る顔を見られまいと、して。
『…え?ほんと…?』
そう告げれば、少し周りを見廻すかのような彼女。
…?
ああ、姿見、か…?
恐らくそれを探しているのだろうと中りを付け、
渡してやるべく立ち上がろうとしたその矢先、
彼女が俺様の方へと向き直り、
『…取って?』
と、頬を差し出して…くる。
遅れてふわりと薫る、
洋菓と…彼女の、馨…。
…ああ。
もう、無理…かもしれん…。
俺様が闇に潜むそれ。
その封印は完全に解かれてしまったのだ…。
「…それは、故意…か?おなまえ…。」
え?という彼女の声は待たず、
差し出されるとは反対の頬に手を添えて、
残った甘き乳白を、つつと、舌で、浚い取る。
『ふぁ!?…た、田中っく、んっ!?』
ぼっと、その白妙な頬に火を灯しながら、
途端に暴れ出す彼女の小さな抵抗には応じずに、
「…ああ、まだ、残っているな…?」
『ふ…んっ…ぁぅ…。』
もちろん甘き乳白等…
欠片も残っておらん唇を、食む。
ちゅく、と軽くその水音と共に彼女を解放すれば、
ほんの僅かに、俺様の中へとそれが舞い戻る。
…やって、…しまった…な…。
彼女の様子を伺えば、
どこか焦点の合わない彼女の表情に、
戻ったそれが、また遠退くような気配がしてくる…。
その為、また少し彼女は観ぬままに、
「…済ま、ん。
だが…俺様も、男…なのだ。
あまり…煽ってくれるな、おなまえ…。」
先んじて、そう告げ、謝っておく。
さすれば彼女の焦点が、俺様へと定まっていくのを感じ、
ゆっくりと、俺様も彼女の方へと瞳を動かす。
『…うん、ちょっとびっくり、しちゃった…よ。』
やや咎めるような彼女の視線。
それすらも可愛らしいものだが、
「む…済まん。」
今後の為と、一応再度と謝辞を口にする。
そうすれば、ふっと表情を緩める彼女。
『…でも、私…ちょっと、期待?してたというか…して、ほしかったの、かも…。
意外と、嬉しい…気持ちが強い、かな。』
…えへへ、やっとしてくれたね?
そう、白妙な頬を紅色に変えてはにかまれれば、
…もう、やはり…無理、なのだ。
「…おなまえ、先も言ったはずだが…
煽ったのは、貴様だからな?」
両目で彼女を捕らえ上げ、熱く視線を注げば
『…え?…え?
…あ、えっと…。』
おなまえも意味を理解したようだが…
もう、全て遅いな…。
『あ、あのっ…ちょっと、まっ…んぅっ…ぁ、ふ…。』
制止の言葉毎、彼女の唇を食み、
『ぁっ…はぁぅ…んっ…。』
彼女の唇の甘さも、柔らかさも、その声も。
全てを残さず喰らい尽くしたく、
舌を絡めてしまうのだ。
『…んんっ…ぁ…はぁっ…ふ、ぁっ…。』
―その後、彼女が軽く意識を飛ばすまで、
その唇を貪り酸素を奪う暴動に出てしまったのも、
まぁ…必然というものだろう…。
…全ては可愛すぎる、おなまえが悪い。
そう、俺様を誘う、白妙甘美な彼女と洋菓が悪いのだ。
終
*****
大変お待たせ致しました上にこんな仕上がりで申し訳ございません、申し訳、ございません…!(土下座&大事な事なので2回申し上げさせて頂きました。)
新年一本目…甘々なお話を!という事だったのですが…甘いでせうか…なんかもう…甘いというか、田中くんが始終主人公ちゃんにムラムラしてるだけのお話なってしまったような気が、気が…(気のせいじゃないよ)
申し訳ございません…(陳謝)
甘×甘でお菓子という安直さにまた井澤のセンスの無さを感じますね…!!笑顔(泣いて、る!←どっちやねん)
この度も大変貴重なお時間を頂戴致しまして恐縮の限りです。
最後までお読み頂きました皆々様、本当に有り難うございます。
こんな感じでのスタートで心苦しい限りではございますが、どうか本年もよろしくお願い申し上げます。
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