[携帯モード] [URL送信]

ガラクタな唄【昔語り】
夢守【初代嵐×初代大空】


「やっぱり、断りの連絡を入れようか」

 彼は少しだけ眉をひそめていた。避けることのできない会合だったが、どうにも嫌な予感がすると言って。彼の直感は当たる。だが。

「アンタの右腕を信じろよ、ボス」

 それを振り払うかのように不遜な笑みを浮かべた。







 ジョットのもとにその情報が入ったのは、それからすぐのことだった。

 ボンゴレの敵対勢力が、同盟ファミリーのいくつかに声をかけていると。それはよくある話だったが、淡々と報告される裏切りの可能性があるファミリーの名前を聞いているうちに、ジョットの顔から血の気が引いた。Gが会合に向かったファミリーが含まれていたからだ。

 彼は敵地に単身乗り込むことになる。

 今回の件に関してはどうにも嫌な予感がぬぐえなくて、それがただの思い過ごしならよかったのだけれど、結果的には最悪パターンだったのかもしれない。

 いてもたってもいられず、ジョットはすべての仕事を投げ出して、彼の後を追った。




 彼がたどり着いたとき、Gがいるはずの屋敷は不気味なほどに静かだった。銃声もなく、人の気配すらなく。だが、惨劇が起こった直後だというのは扉を開けた途端にわかった。血臭と硝煙の臭いでむせ返るほどだったからだ。

 そして、入り口のホールでジョットが目にしたのは、おびただしい数の死体の山と、その真ん中に立ち尽くす青年の姿。

 びりびりとした空気はいまだおさまっておらず、何人かついてきていた部下が呑まれて少し後ずさったのがわかった。額をつと落ちた冷や汗は気づかないふりをし、ジョットはあえていつものように呼びかけた。

「G」

 ゆらりと炎が動くような錯覚を覚える。ゆっくりと、Gが視線だけでこちらに振り向いた。狂気は感じられない。それでもいつもの彼よりもひどく尖ったままの雰囲気が気になった。

「……バカヤロウ……仕事は、どうしたんだよ……」

 呟くように、彼の口から声がこぼれる。

 生きていたことにほっとしつつ、駆け寄ってみてジョットは彼の姿に青ざめた。

 傷つけられたのか、返り血を浴びたのか、その両方か。炎のように燃える色をした髪は赤黒く変色していて、うつむいた顔もべっとりと汚れていた。ジャケットやシャツも誰のものかわからない大量の血を吸っているようで、もはや使い物にならないだろう。愛用のボウガンは指先が白くなるほど強く握りしめられていて、彼の戦いのすさまじさを物語っていた。

 ジョットが駆け寄るが、Gはその場を動こうとしない。

「お前、怪我を……!」

「……大した傷じゃない。だが……」

 ぐらり、と長身が傾いだ。



「さすがにちょっと……疲れた……」



 悲鳴にも似た幼馴染の声を聞きながら、Gは限界だった意識が遠のいていくのを感じた。



*  *  *



 たいしたことのない仕事のはずだった。ボンゴレの名代として、同盟ファミリーのもとに顔を出しに行くだけだったからだ。ボスとして多忙を極めるジョットの代わりに補佐であるGが赴くのはごく自然な流れだった。

 城内に入ったときのどこかぴりぴりとした空気に違和感を覚えなければ、無事ではいられなかったかもしれない。ジョットとG自身の漠然とした警戒感が彼を救った。



 子供が作った組織などに従っていられるか、というチープすぎる理由を勝手にべらべらとしゃべるでっぷりと太った男に苛立ちを感じながら、よくもまあ途中まで会談の体裁を保っていられたと思う。それもGに対する引き抜きの言葉が出てくるまでだった。

『こちらには大きな後ろ盾もある。頭のいい君には、どちらにつくのが得策かわかるだろう?』

 そうニヤニヤ笑う男の顔に反吐が出そうだった。

 金も地位も名誉もいらないのだ。ただ、自分たちは仲間を守りたいだけなのだから。それもわからずよりにもよってジョットとともにボンゴレを作り上げたGに声をかけるなど、愚策にもほどがある。もちろんそれを教えてやる気もないが。

 交渉決裂が決まった瞬間、銃を抜いたのはほぼ同時。

 屋敷中の人間が敵だ。圧倒的に相手に地の利も人の利もある状況。



 生き抜くことだけを考えながら、Gは怒りに任せて辺りの敵を駆逐したのだ。



*  *  *



 はっと彼が意識を取り戻したとき、そこはもう戦場ではなかった。

 見慣れた天井は、自室のものだ。ああ、帰ってこれたのかと、ようやくGは詰まった呼吸をゆっくりと緩めた。

 少し身じろぐと、身体のそこかしこに痛みが走る。戦っているときは気づかなかったが、さすがに無傷ではいられなかったようだ。

「目が覚めたか」

 声がしたほうを見やると、ベッド脇の椅子に腰掛けたままこちらをじっと見つめるジョットと目が合った。

「……何日経った?」

「……丸二日、眠っていたよ」

「そうか」

 顔色が悪い気がするのはGの気のせいではないだろう。いったいいつからそばについていたのか。自分のほうが痛々しい顔をして。

「すまない……情報が遅れたせいで、お前をこんな目に合わせた」

「いいさ、五体満足で生きて帰ってこられたんだ」

 実際いくら強くなろうが、この血なまぐさい世界にいる以上、常に身の危険は隣り合わせだ。生きるか死ぬかの場面なんて今までだって何回も経験してきた。それはジョットだとて同じだ。それでも彼は、こういうことがあるといつも自分を責める。何かできることがあったのではないか、と。もう少し早く動いていれば何かが変わったのではないか、と。

 今もきっとそうに違いない。

「……まあ少し暴れすぎたかもしれねぇけどな」

 倒れた自分をもあえて茶化すように苦笑交じりで言ってやる。

「ボンゴレを……お前を捨てて来いと言われたんだ。思わずキレちまった」

「G……」

 お前は悪くない、とジョットは首を振った。

「嫌な思いを、させたな」

「は、だから暴れてきたんだろうが。ボンゴレをなめてもらっちゃ困る」

 昔から、どちらかといえば拳を振るうのはGのほうだ。きっと本当に取っ組み合いのケンカをしたら強いのはジョットのほうだが、彼はとにかく優しすぎた。何かあるごとに、悲しそうな彼の代わりに感情を爆発させ、力に訴えるのはGの役目だった。

 まっすぐで破天荒なくせに甘く優しい幼馴染。上司になった今でもその本質がかわるわけではない。幼かった頃のように、振り回すだけ振り回せばいいと思うし、やりたいことがあるのなら存分に頼ればいい。求められれば、彼のための盾にも矛にもなろうと、Gはいつも思っている。



「なあ……自警団を作ったとき、オレたちにはお互いしかなかったよな」

「そう、だな……仲間を守りたい、ただその思いだけで、力など何一つ持ってはいなかった」

 あれからまだわずかの時しか経っていないが、ジョットをトップとする自分たちの組織は、概ねよくやっていると思う。

「今は、守るための力も大きくなった」

「ああ……そうだな」

「それは、お前が勝ち得てきたものだ、ボス。そして、オレが勝ち得てきたものだ」

 目的を果たすために、お互いに色々なものを犠牲にしてきた自覚はある。だが代償は大きくとも、やらなければやらないことがはっきりしていたから、前を向いていられた。

 ジョットが仲間のために強くなったように、Gはジョットのために強くなったのだ。

「お前が守りたいものは、オレが守りたいものだ。お前の夢は……オレの夢でもある。そう思ってるのは、きっとオレだけじゃないだろうけどな」

 はぁ、と彼はそこで一度大きく息をついた。どうやらヒビでも入っているらしい肋骨がぎしりと痛みを訴えたからだ。その様子に、ジョットの顔が曇る。

「そんな顔をするな……オレは、お前の力になれるのが、何よりうれしいんだぜ?」

 それは飾りのない本音だ。

「しっかりしろよ。ボスがドンと構えていれば、組織なんてなんとかなるものさ」

 だからちゃんと仕事しろと冗談めかし、ジョットはそんな幼馴染の姿につられたように少しだけ笑って。

 そして、こらえきれないというように、掠れた声でこう言った。

「でも……いまだけ、ボスを休んでいいか……?」

 Gは微笑んだ。普段は部下の手前出さずにしまってある慈しみや愛おしさが、抑えきれずにこぼれるように。



「ああ……好きにしろよ、ジョット」



「……っ」

 許された途端、このところジョットがずっと被っていた……否、被らされていたドン・ボンゴレという仮面は一瞬で消えうせた。そこにいたのは、Gが昔からずっと見てきた、自分が傷つくよりも他人が傷つくのを何より恐れる、ただの優しい青年。

 Gの手を捧げ持つように包むジョットの両手にきゅっと力がこめられた。祈るようにそれを自分の額に押し付け、ジョットは言葉を震わせる。



「……お前を失うかもしれないと思ったら……仕事なんて放り出して走りだしていたよ……」

「信じろって言ったろ……」

「ああ、信じてる。けど、心配くらいさせてくれてもいいだろう……?」

 腕を伸ばし、俯き気味のジョットの顔にかかった髪をそっと払ってやると、幼い子供のように泣き出しそうな表情で包帯だらけのGの手にすがりついてくる。



「無事でよかった……!」



 こんなにも彼にダメージを与えることができてしまう自分がいることに後ろ暗い優越感のようなものを感じ、Gは内心苦笑した。

 組織が大きくなっていき、ボスとなったジョットの周りには敵も味方も着実に増えている。けれど、こんなにも彼の奥深くまで入り込んでいるのは自分しかいない。

 Gが彼に抱く感情は、非常に複雑だ。幼いころから共に育ってきたジョットは家族のようでもあるし、ゆっくりと恋心を育ててきた仲でもあるし、そのカリスマ性についていこうと決めたときから、敬愛の対象でもあった。一言では言い表せない繋がりが、二人にはある。家族として、恋人として、対等な主従関係として。ジョットもきっと似たようなものだろう。

 ジョットが傷つくことがあれば、Gも自分で感情のコントロールがきくか定かではない。それほど、大切な相手なのだ。お互いに。

「……お前を置いていけるかよ、ジョット」

 びりびりと神経を震わす痛みをこらえ、Gは気力で上半身を起こした。軽く目を見開いたジョットが無茶をするなと言いたがっているのは十二分に承知している。

 ぐっと腕に力を入れ、ジョットを胸に引き寄せた。傷めた肋骨が悲鳴を上げたが、そんなことはどうでもよかった。こんな顔の恋人を目の前にして、自分の怪我のことを構っていられるほど情けない男ではいたくないのだ。

 体重をかけないようにと慌てるジョットを強く片腕で抱きしめた。

「大丈夫だ……オレはこうして生きている」

 だからそんなに震えなくていいんだと、体温と共に彼に言葉を注ぎ込む。それは自分に対する言霊でもあった。

「お前のために生きる。それはオレが幼い頃に立てた誓いだ。破るつもりはない」

 慰めるように、耳朶や頬に唇を落としてやる。キスの数だけ、ジョットの身体から力が抜けていくからだ。唇を合わせたときには、震えはもうほとんど止まっていた。

 ついばむように始め、浅くなっていた息が落ち着いていくごとに少しずつ深い口付けを与える。吐息ごと奪うようなディープキスになる頃には、ジョットはうっとりと溶けた濡れたような瞳をGに向けてきていて。だいぶ落ち着いたのだと安堵するのと同時に、この怪我のまま抱くのは怒られるだろうな、なんて真剣に考えている自分にGは微かに笑った。

「G……?」

 いぶかしげなジョットをことさら強く抱きしめ、そのまま彼の耳元で囁いた。

「どうしても不安なら……生きろって言えよ。それだけで、オレはここに帰ってこれる」




 お前のそばに帰ってくるから。

 にやりと、Gは口元をゆがめた。








「言えよ……愛しいオレだけのボス」






 さあ、傲慢で甘美な命令を下せ。

















2010.6.3up



蛇足:プリーモシリーズ、嵐編。なし崩しにエロシーンに行こうか最後まで悩みましたがそれはまたにしました。

かなり駆け足で話を進めてしまった感満載なので、もしかしたら少し加筆修正するかもしれませんが、
要するにG兄さんもジョットさんもお互いが大事でたまらないんだよってことが言いたかったわけです、ハイ。


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!