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ガラクタなウタ【跳ね馬と小鳥】
ちかちかと瞬く【ディノヒバ】
 日本を訪れる際にディーノが常宿にしているホテルは知らない人のいない名前の高級ホテルで、
一部屋どころかワンフロアまるまる借り切っているイタリアンマフィアがいったいいくら払っているのかは知らないけれど、
その部屋の居心地の良さは恭弥も気に入っている。

 広いリビングに置かれたふかふかのソファとか、二人寝てもまだ余るベッドとか、泳げそうな風呂とか。
恭弥がこなければあの金髪のイタリア人はこの広い部屋のどこで時間をつぶしているのだろうと思うほど、
逆に一人では寂しすぎる空間。



 部屋の主は、必死になって仕事を片付けているのだろう。
恭弥が訪ねるまでに処理しきれなかった書類の束はまだそれなりにあった。
帰ろうとする恭弥を泣きそうな顔で押しとどめ、
風呂にでも入ってゆっくりしててくれと懇願してきたのはついさっきのことだ。

 伸びをすると、ちゃぷんと水が鳴った。
程よい温度の湯に満たされたバスタブで肩まで湯に浸かったまま天井を見上げる。
髪が濡れるのも意に介さずに眺める先、照明を落としたバスルームの天井には、ゆらゆらと星が煌いていた。

 いつだったか二人でディスカウントストア(どうしても行きたいとディーノがダダをこねたのだ)
に遊びに行ったときに、彼が欲しいと言い張ったミニプラネタリウム。
二人でバスルームにいるとゆっくり眺める間もなく身体を重ねる行為を始めてしまうものだから、
初めてちゃんと見た気がする。小さな四角い箱が映し出す満点の星空は、
本格的とまではいかなくてもそれなりのもので、北斗七星、カシオペア座など、
特に詳しくもない恭弥の知識でもわかる星がいくつか瞬いていた。

 ディーノはひとりのときこれを見ただろうか。いや、彼のことだからろくに湯にも浸かりはしないだろう。
そもそも、日本にいる間、彼がひとりでいることなど数えるほどもないのだから。きっとこれは、恭弥と楽しむため。
あるいは恭弥に喜んでもらうための。


 
 まぶたが落ちかけたのと同時に、ディーノが名前を呼ぶ声がした。視線だけドアに向けると、
少しだけ隙間があいて、ほっとしたような顔の彼が覗く。

「終わったぜ、待たせて悪かったな」

「別に。星、見てたし」

 無造作にバスタブからあがって子供のようにぺたぺたと近づく恭弥を優しくバスタオルでくるみながら、
ディーノは笑った。

「絶対恭弥が気に入ると思ってたんだぜ、それ」

 そんなにロマンチストではないけれど、綺麗なものは嫌いではない。それを見透かされたようで、悔しくて、
目の前にあった金髪の束を少しだけ掴んでひっぱった。

 いて、とか言いながら好きにさせているディーノの見慣れた髪が、手の中で星より綺麗に煌いたから。
 
 なんだか待ちきれなくて、タオルを跳ねのけてぶつかるみたいなキスをしてみる。



 ディーノの驚いた顔と彼のキラキラした金糸をまぶたの裏に残したまま、
恭弥はふっと笑みをうかべてゆっくりと目を閉じた。















2010.7.8up



蛇足:七夕イメージで書いたわけではないのですが、星つながりでアップ。
うちの雲雀はツンデレのくせに結構きっちり好きアピールをしているような気がします(笑)


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