ガラクタなウタ【跳ね馬と小鳥】
この感触【ディノヒバ】
ひよこみたいだ。
自分の髪をそう年下の恋人に言われたのはいつのことだったか。意外と小動物が好きらしい彼にしてみればほめ言葉なのだろうが(たぶん)、うれしいような悲しいような。
恭弥にくっついて飛んでいる黄色い小鳥を思い出す。弟分はヒバードとか呼んでいた。恭弥にとって自分はヒバードと同じようなものなのだろうか。それはないと思いたい。
応接室にいなかった恭弥を探して屋上に行ったら、陽だまりの中、ヒバードと仲良く昼寝をしている恭弥を見つけた。起こさないように近づいて横に座ってみる。
陽の光を浴びた恭弥の髪は濡れているように艶めいているのに、そっと撫でてみるとふかふかとしたぬくもりが手のひらにじんわり伝わる。
恭弥は猫のようだと思う。高い屋根から街を見下ろす、孤高の黒猫。艶やかな髪と鋭い瞳は見るものを魅了してやまない。いつまでも愛でていたいし、自分の腕の中に閉じ込めて誰にも見せたくなくなる衝動にもかられる。
かわいいっていうのはこういうのを言うんだよな、と日ごろから部下にでれでれと告げているように、恭弥の傍にいるだけで、頬が緩みっぱなしになる。かわいくて愛おしくて、胸がいっぱいになるなんて、味わったことのない経験だ。今までにないくらい本気で焦がれて、手に入れたかった存在。部下にもよく冷やかされるけれど、一番近くにいていいという許しをもらったその日から、常に頭が春なのはもうどうしようもない。
「かわいいなあ、もう……」
思わず呟いたら、ぱちっと愛し子の目が開かれた。
「お、恭弥起きた?オハヨ」
少しまぶしそうに目をすがめる恭弥の頬に慈しむような軽いキスを落としてやると、
「……あんなだだもれの気配に気づかなかったらどうかしてる」
憮然とした態度の恭弥ではあるが、機嫌は悪くないらしく、ディーノを跳ね除けたりはしなかった。それをいいことにそこかしこにキスをしながら「かわいい」を連発していると、身体を起こした恭弥が眉をしかめてみせた。
「かわいいとか言うなって、僕前にもいったよね?」
「だってかわいいから」
「うるさい。何度も言わせるな、この鳥頭」
「鳥頭? それは髪が金髪でふわふわしてるってことか?」
前にもひよこみたいって言われたしな、なんてディーノがへらへらと笑うと、一瞬ぽかんと動きを止めた恭弥が、世にも珍しいことに、肩をふるわせて笑い出した。
「……っ、鳥頭……っ」
何かがツボにはいったらしい。耐えられない、というように口を押さえながら、恭弥はそれからしばらく笑い続けた。
なんだかよくわからないが、恭弥が楽しそうだからいいか、とのんきに笑っていたディーノが、言葉の意味を知ってお仕置きに走るのはだいぶ後のことになる。
2010.3.19up
蛇足:タイトルと中身がちとずれてる気がしないでもないけどまあいっか、と強行。はじめはお互いに頭なでなでしてる話だったはずなんですが、ディノさんがいつも以上にお馬鹿なためにこうなりました。
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