ガラクタなウタ【跳ね馬と小鳥】
ページを捲る音だけが【ディノヒバ】
いつものように応接室に押しかけてきた割に、珍しくディーノが静かだった。
静かな理由は単純なもので、彼が妙に大人しく本を読んでいるからだ。イタリア語で書かれているようで何の本かは表紙を見てもわからないが、なんだか苦虫を噛み潰したような顔で「ロマに押し付けられてな」とか言っていたから、もしかしたら仕事の資料だったりするのかもしれない。本当に忙しいとき、彼はそうやって雲雀のそばでもこっそり仕事をこなしている。それはそれでいいことだ、自分の仕事が捗る。
ぱらり、ぱらり。規則的にページをめくる音がする。
放課後の校内特有のざわめきはどこか遠く聞こえ、伝わる静けさが応接室に満ちている。時々雲雀がペンを走らせ、書類をそろえる音が妙に大きく響いた。
いつもは閨でしか聞こえないような静かな息遣いさえも耳に届く。書類をこなしながら、ソファに沈み込んで黙々と本を読むディーノの横顔をちらりと見やると、ほとんど見ることのできない真剣な表情がそこにあった。
(ふぅん……あんな顔もできるんじゃない)
窓から差し込む光を受け、金の髪が透き通るように輝く。日本人より白い肌が艶めき、陰影を際立たせた横顔に長い睫が瞬いて。瞳を伏せ気味に集中する彼を綺麗だと思った。
じっと観察していたらさすがに気づいたのか、ディーノが困惑気味に雲雀をうかがう。
「えっと……?」
なんだか恥ずかしくなり、何も言わずに雲雀はまた書類に視線を落とした。首を傾げながら、ディーノもまた本に戻る。
ぱらり、ぱらり。
紙が立てる音だけが静かに聞こえる。
仕事は順調に進んでいる。ディーノのちょっかいをかわす時間がない分、いつもより早く終わりそうだ。
なのになぜだか落ち着かなくて、雲雀はやおら立ち上がった。
「恭弥?」
雲雀はあっけに取られるディーノをよそに、憮然とした顔のまま彼に近づくと、ぼすんとわざと乱暴にその横に座り込んだ。衝撃でソファのスプリングがぎしぎしと鳴く。
「……むかつく」
まるで自分を落ち着かせるように、雲雀は大きなため息をついた。
「なんで僕がこんな気分にならなきゃいけないの」
「はぁ?」
ディーノが静かだからだ、と雲雀は眉をしかめて目を閉じる。こんなのはディーノらしくない。調子が狂う。まるでかまって欲しい子供のようなモヤモヤとした感情を自分が抱くのが許せなくて、雲雀は顔が見えないようにディーノの肩に頭を乗せた。
「だから早く、いつもみたいに僕のご機嫌をとりなよ」
2010.2.24up
蛇足:ツンデレ。ディーノは珍しくかまってちゃんな雲雀にワタワタするといいよ! そして仕事のことなんて頭からふっとんであとでロマに怒られるといいよ!
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