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ガラクタなウタ【跳ね馬と小鳥】
唇に聞いてみる【ディノヒバ】






 暗い部屋の中で目が覚めた。

 身体を起こさずに横を見やると、窓から差し込むわずかな月明かりを受けて艶めく黒髪。

 思わずほほを緩め、腕の中で眠るその姿をそっと見つめた。







 だいぶ以前、人と一緒だと眠れないと言っていた恭弥を思い出す。少しの物音でも目が覚めてしまうから、と。

 それは必要以上に気が張っているからで、オレといるときは安心していい。そう笑いかけ、触れるだけのキスをして抱きしめると、恭弥は困惑していた。そんなときの姿は存外に幼く見え、そういう甘え方を一切してこなかったんだと、切なくなったものだ。

 一緒にベッドに入っても眠る気配をまったく見せてくれなかった恭弥が、いつからか小さな寝息を立ててくれるようになったのは、本当にうれしい。少しは頼りにしてもらえているということだから。

 頬に一房落ちたすべらかな髪をそぅっとどけてやる。やわらかな頬や首筋の白さに、眠る前の痴態が鮮明に思い出され、心臓が小さく跳ねた。

 こんな子供に欲情するなよ、と自分でも思う。細い身体を組み敷くたび、無理を強いているのも知っている。それでも、恭弥独特の色気のようなものには抗えず、そのすべてを欲しいと思ってしまう。

 ずくり、と体の奥で尽きない欲がうずく。

 その不埒な気配に気づいたのだろうか。

「……」

 恭弥がうっすらと目を開いた。

「わり……起こしちまったか」

 まだ夢うつつの恭弥の頭をふわりと撫でて、ごめんなと軽いキスを落とす。気持ちよさそうな表情を薄く浮かべ、恭弥は緩慢にディーノの腕へ手を伸ばした。

「ねむれ……ないの……?」

 跳ね馬のタトゥーに唇を寄せ、寝言のように恭弥が囁く。少し乾いた唇と吐息の感触がくすぐったい。誘うようなこんな姿は、無意識のものなのだろうけれど。

「いや、少し目が覚めちまっただけだ」

「……そう」

 睡魔に半分ほど意識を持っていかれているのか、まぶたが緩慢な開閉を繰り返している。愛しさがこみ上げてきて、その目元に唇を寄せた。

「寝てていいぜ」

 顔のあちこちにキスを落としながら掠れた声を落とせば、切れ長の瞳が少し瞬いた。そして苦笑するような、ゆるやかなため息。

「……よくいうよ……この状態で寝れるわけないでしょ……」

 まだ完全覚醒にはいたっていないのか、その声は掠れ、動きは鈍い。ゆっくりと寝返りをうち、するりとディーノの首に腕を回す。ねだるような仕草に、柄にもなく心臓が早鐘を打った。

 幼い身体に施されているのは愛撫ともいえないスキンシップだが、ディーノの思っている以上に強い刺激となっているのだろうか。そう考え、ただその身体を少し強めに抱きこんで「いいから寝てろよ」と囁いたら。

「違う……」

 僕じゃなくて、と眉をひそめ、恭弥はもぞもぞと身体を動かした。

「この状態で……アナタ、寝られるの……?」

 軽くひざで下肢を圧され、ディーノは苦笑した。そこには明らかな興奮の兆しがあったからだ。密着している恭弥には隠し通すことなどできない。

「ハハ……お前のかわいい寝顔見てたらつい、な」

「……変態」

 なんと言われようと、好きな相手が無防備に横に寝ていたら、それなりに身体が反応するのは本能だろう、とディーノは思う。まして普段は手のつけられないじゃじゃ馬が、自分の前でだけはやわらかな表情や淫靡な痴態をさらしてくれているのだと思えば、その愛おしさや優越感は計り知れず、自分を昂らせるばかりだ。

 今だって、口にするのはいつもと同じ悪態だが、語気はまったく違う。睦言のように、甘く響く。今日は寝起きの不機嫌さはさほどないみたいだから、なおさら。

 たったそれだけでうれしさがこみ上げ、胸にすっぽりと包み込んでいる黒髪をゆるゆると撫でた。

「じゃあ……しても、いい?」

 年甲斐もなく少し甘えたように、丸い頭に頬を摺り寄せる。シャンプーのいい匂いがした。同じものを自分も使ったはずなのに、恭弥から香るだけで、やけに甘く感じるのはどうしてだろう。

「なぁ、恭弥……」

 ゆるく背中を撫でていると、ディーノの首に回された腕に、きゅっと力がこめられた。

 少しだけ身体を離して年下の恋人の顔を覗き込むと、伏せるように視線をそらされた。照れているのだとわかるその仕草がかわいらしすぎて、なけなしの理性で抑えている肉欲を伴った愛情は今にも爆発しそうだ。

 10代のヤりたい盛りはもうとっくの昔に過ぎ去ったと思っていたのに、自分でも驚くほどに身体がこの肉体を求める。気持ちがあふれすぎて、それを伝えたくて。当初こそ恭弥にも呆れられていたが、いまでは「愛情を伝え合う行為」だということがちゃんとわかってもらえたらしく、最初の頃ほど拒まれることはない。

 そう、今も。

「……仕方ない人だね」

 あきれるような声色は、きっとわざとだ。自分も同じように恋人を欲していると、素直に言えない恭弥の、小さな反抗。

「僕をもっとその気にさせてくれたら、いいよ」

 そういって目を閉じ、軽く唇を突き出す。

 どこまで人をあおれば気がすむんだ、この子は。そう思いながら、ディーノは破顔した。



「おおせのままに」



 どうせ明日は二人して休みだから、ゆっくりとこの時間を楽しもう。意地っ張りな恭弥が再びかわいく鳴いてくれるまで、全力でその気にさせてやる。



 ディーノは微笑んで、恋人と深い口付けを交わし始めた。










2010.2.16up



蛇足:初ディノヒバです。出会い編も書いていたはずなのに、なんだかまとまりなくなってしまったので、こちらが先に仕上がってしまいました。キョーヤはだいぶほだされている模様です。





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あきゅろす。
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