誰かに聞いた怖い話
・・・深夜の客6
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彼が後部座席に座るお客さんに向かって、急ハンドルのお詫びの言葉を掛けた時、既にそこには誰も座っては居ませんでした
『!』
そして次の瞬間、彼は慌ててブレーキを踏み付けたのでした
そう、例え様は悪いですが、いつもの真綿で首を絞める様なゆっくりと、じんわりとした踏み方では無く、シートベルトで固定された身体が前に持っていかれそうな、そんな極端な急ブレーキだったのでした
けれどもそれは、彼で無くとも無理からぬ事でした
居ないのです
そこに居るべき人間が、ルームミラーから見渡せる範囲に映って居なかったのです
それでも彼は、こう考えたのです
彼女は急に具合が悪くなって、後部座席に横になっているのかも知れない、そうで無ければ…前席のシートと座席のシートの狭い隙間に、頽れているのでは無いかと…そんな風に考えて、慌ててブレーキを踏んだのでした
でも…
でも本当は彼も、薄々気付いてはいたのです
車を停めて後ろを振り返っても、そこには誰も居ない事に彼は既に気付いていたのです
それは彼等タクシー運転手の間に流れる、一つの噂話のせいでした
それを彼は思い出したのです
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