誰かに聞いた怖い話
96話…真相
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『兄…さん…』

焚き火の炎の揺らめきの中、徐々に浮かび上がるその姿は、間違いなくあの日の兄の姿だったのです



私の記憶にしっかりと刻み込まれた、あの当時そのままの若く逞しい兄の姿…



私の為に命を落とした…あの当時のままの兄さん…



『兄さん!』

私は焚き火の傍らから立ち上がると、一日たりとも忘れた事の無かった兄の元へと駆け寄り、兄の胸に飛び込んだのです



『?!』



けれども、私が兄の胸に抱かれる事はありませんでした



兄に向かって広げた私の両手は虚しく空を切り、よろめく様に私は兄の身体を擦り抜けていたのです

そう…兄の身体は、まるで蜃気楼の様に…

私の眼には、こんなにはっきりと見えているのに、私には触れる事すら出来ないのです



『兄さん?』

私はその驚きと困惑の中で振り返り、たった今擦り抜けたばかりの兄の背中に向かって、そう話し掛けるしかありませんでした



でも…兄は振り向きませんでした

私を見ても…振り向かなかったのです



…兄さん?



…私の事を忘れちゃったの?



…私は兄さんの事を、一日たりとも忘れた事など無かったのに…



『兄さん?』

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あきゅろす。
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