誰かに聞いた怖い話
・・・火の玉18
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『君達なら…』

そして彼は更に続けたのです



『君達ならどうする…自分がこの世を去って…いや、この世を去ろうとしているその時…身体中を走る焼け付く痛みに突然甦り、そこが業火に巻かれる狭い空間だったら…君達なら…どうする?』

病院長の息子の質問に、誰も答えませんでした

私を含めた誰もが、その質問に答えなかったのです



いいえ…答えられない…答えたく無かったのかも知れません



『どっちが楽なんだろうな?』

その場に一瞬訪れた静寂を破ったのは、サーファーの彼でした

彼は強い風に煽られ、真っ暗な空に火の粉を撒き散らす焚き火の中に、一本の小さな薪をそっと差し込むと、そう誰にとも無く呟いたのです

『音も無い真っ暗な闇の中で、段々薄くなる空気をパクリ…パクリと、まるで酸素が欠乏した水の中で、水面に近い所で必死に口をパクリ…パクリと動かす金魚の様な死か…』

『それとも、地獄の業火に焼かれる…死か…』

そしてその場には、再び静寂が訪れたのです



パチン!



それは新しい薪のはぜる音でした

黙りこくる私達に対して、益々強まる風が何かの到来を必死に告げ様としていたのかも知れません

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あきゅろす。
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