誰かに聞いた怖い話
・・・火の玉6
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右手を半ば伸ばし掛けた彼は、右手でそれ以上不思議な松明の明かりを追うのを諦め、ずきずきと痛む左手に力を込め様としました

もうその時には、その明かりはいつの間にか元の位置に戻っていたのです



その頃には彼も気付いていました



痛む左手のせいで、彼の朦朧とした頭も靄が晴れる様に冴え、その松明の明かりが尋常な物では無い事に気付いていたのです



けれども彼は、恐る恐るながらも再び右手を伸ばしていたのでした



スイッ…



その青白い炎は、今度は左側には動かず…右側へ…墓地の地面の上に転がったままの彼の手の届かない場所に、スーッと動いたのです





いつの間にか先程迄の雨はやみ、辺りからはこおろぎの鳴き声が、近くから遠くから鳴り続け…その闇の中を青白い炎が、ゆらゆら…ゆらゆら…と



そして彼は、その炎に魅入られた様に、あちこち痛む身体に鞭打ち、痛む左足を引摺りながらも追い続けたのです



彼には分かりませんでした



何故自分が、そんなモノの後を追うのか…



何故自分が、その炎を捕まえたいと思うのか…



彼は後を追いました

その距離は、大した距離では無かったかも知れません

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