誰かに聞いた怖い話
・・・百人浜11
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『まさか!』

先程の何者かの姿を求めて辺りに視線を巡らした彼でしたが、その姿を何処にも見付ける事は出来ず、彼の脳裏には嫌な予感が走ったのです



『確かにアレは、女の人…だったよな?』

目を瞑る迄の一瞬の間に彼の瞳に焼き付けられたモノは、確かに髪の毛を長く垂らした女性らしき姿でした



…こんな夜中に、こんな場所で…



不審に思った彼は、その木に向かって…沼のほとりに向かって歩き出したのです



けれども、そっと彼が覗き込む沼の水面に映った物は、大きく広がる波紋によって、伸びたり縮んだりその形を変えながら足下に揺らめく、もう一つの月の姿でした



彼にはそれが、信じられなかったのです

先程一瞬だけ目を瞑った彼の耳には、何者かが何処かに走り去った足音も、沼の中へと飛び込んだ水音さえも聞こえ無かったのです



それでも…その沼の水面には、丸い穏やかな波紋が広がっていました

いいえ…その波紋の一部は既に沼の岸辺を洗いつつ反転して、沼の中央へと広がりを見せている波を追い掛けていたのです



けれども、彼がじっと目を凝らして見つめ続ける水面に、何かが浮かび上がる気配はありませんでした

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あきゅろす。
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