誰かに聞いた怖い話
・・・百人浜10
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彼の歩む先には今宵の妙な気候の仕業なのか、妖気すら感じさせる濃い霧に包まれたさほど深くは無い沼が、誰かが近付くのをひっそりと待ち受けていたのです

ともすれば足を取られそうな、頼り無い月明りだけの砂浜を歩く彼は、未だその存在には気付いてはいませんでした



時折美しい星空を見上げながら、月明りを頼りにゆっくりと足を進めていた彼は、海岸の細かい砂粒を巻き上げながら吹き付けた旋風に顔を打たれ、思わず顔を背けていたのです

そして彼が再び眼をゆっくりと開けた時、立ち込めた霧を先程の旋風によって半ば吹き払われたその沼が、彼の眼前に姿を現したのです

けれども、彼の目に映ったモノは、そればかりではありませんでした



『あれは…?』

彼の瞳には、沼の縁に立つさほど高くない樹木の傍らに佇む、何者かの姿が映っていたのです



『…』

彼がその月明りに浮かぶモノの正体を確め様と、じっと目を凝らした時でした

先程よりもより強い風が彼を包み込み、彼は再び眼を瞑っていたのです



そして彼の周りを渦巻き吹き抜ける風が漸く収まった時には、その何者かの姿は既にそこには無く…水面は月明りを受け白く揺らめくばかりでした…

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