誰かに聞いた怖い話
・・・羊頭狗肉14
.
『あなた…』



『酷い…そんな事を考えていたなんて…』

愛しい我が子が母の乳房を見失ってむずかるのにも気付かずに、彼女は悲しそうな眼をして夫の事をただじっと見つめていたのでした



『いや、そんな事は…』



『…』



『…疑って…済まない』

彼女はそんな夫から目を逸らし、我が子の口に乳首を含ませ直すと再び話し出したのです



『あなたは知ってる筈でしょ…私が初めてだった事は…』



『…うん』



『彼奴はね…彼奴の興味はギャンブルしかないの…彼奴はギャンブル以外には、女にもお金にも興味は無かったのよ』



『お金にも?』



『そう、私があの店の秘密を知ってからそれ程日数が経たない頃に、あの一家は突然夜逃げしたのよ』

『あなたの言う通りにあの肉屋はぼろ儲けしていた筈なのに、あの店主が暇さえあれば競馬に競輪にと、湯水の様に注ぎ込んでいたみたい…そしてとうとうその筋からの借金迄して…でも、あの頃の私は未だ小さかったから、良くは分からなかったけど…』



『でもさ…あの肉屋の主人がメンチやコロッケに、そんな酷い偽装をしてたなんて…事件にも…新聞にも載らなかったよな?』

[前頁へ][次頁へ]

25/99ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!