誰かに聞いた怖い話
60話…羊頭狗肉
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『持って来たって…それをか?』

毎週の様に海に行って浅黒く日焼けをしている顔を、怒りの為か酔いのせいか…上気した様に益々赤らめた友人の一人が、彼に向かって質問した



『うん…』

彼は申し訳なさそうに小さく頷くと、言葉を続けたのです

『この近くにあるお寺で、人形なんかの供養をしてくれる所があるらしいんだよ…だから、明日君に車を借りて行って来ようと…本当に済まない』



『…分かった』

サーファーの彼は旅行好きの彼から目を背ける様に、闇と光を紡ぎ出す焚き火を見つめ、ぽつりと短く呟いたのです



『本当に皆には…』

『もういいよ!お互い様さっ、友達だろ…俺達』



『そうだよ、皆色々な事情を抱えて、ここに来てるんだからさ…気にしない、気にしない』

二人の会話に割って入ったのは、院長の息子でした

そして彼等を黙って見つめる車好きの彼の澄んだ瞳も、同意を示していたのです



『そのカツラ…話の種に一寸見てみたい気もするけど…君もそう思うだろ?』

私のその尋ね掛けに、サーファーの彼はキッパリと答えました



『いや!それは遠慮する!』

そしてその場には、皆の乾いた笑い声が残ったのでした

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あきゅろす。
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