誰かに聞いた怖い話
・・・アーチ11
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『!』

人間誰しも、本当に恐ろしい思いをした時には、叫び声すらあげられないと、人の話には良く聞く事だけれども、この時の僕がそうだった…

その場の光景を目の当たりにした途端、僕の思考は暫くの間その活動を止め、僕の瞳はその物体のみを映し出す鏡となり、僕の口はただ息をする為だけの存在に、一瞬の内に変わっていたんだ



『切れないの…手伝って…』

そう上目使いに呟く彼女の、美しい顔や両手には…

そして彼女が身に付けていた水色のタンクトップの生地には…

その昔…未開の地の戦士が、戦の前に顔に施した様な、赤い色鮮やかな模様が彩られていた

それは、彼女の跨いだ白い物体から、激しく噴き出した液体の一部だったのだ

彼女の左手には、白い物体の一部が握られ…

その物体が付いていたであろう場所からは、赤い液体が滴り落ち…

タイルの目地を伝いながら、徐々にその量を増し排水孔へと吸い込まれていたんだ

そして彼女は、その肉片を投げ捨てると、次の場所へと視線を移していき…

その光景を成す術も無く見つめる僕の瞳には、彼女の異常な行動や、美人とも云えるその顔に浮かべた微笑みが、不気味な化け物に映っていたのだった

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