誰かに聞いた怖い話
・・・アーチ10
.
『なぁーんだ…帰って来てたんですかぁ、お邪魔します』

僕は眠っている所を悪いなと思いながらも、ソファーで寛ぐ先輩に向かって声を掛けたんだ



………



『…』

やはりぐっすりと熟睡していたのか、先輩からの返事は無かった



『早くこっちに来て、手伝ってよ!彼は起きないわよ…ぐっすりと眠っているわ、もう……に』

この時僕は、彼女の会話の最後の部分を、聞き逃してしまっていたんだ





この家の中で、唯一明るく狭い風呂場の中では、ヌルヌルと濡れたタイルの上に、彼女が独りで座り込んでいた

闇に馴れた僕の目には、そのライトの明るさは眩しすぎて、浴室の壁やタイルに描かれた、真っ赤な薔薇やカルミアの花々が一瞬だけ映し出され、そして眩しさに負けて瞑った僕の網膜には、それらの花々と彼女の顔を彩る真っ赤なメイクと…そして…

そして…彼女が跨がる白く妖しい物体が、焼き付いていたんだ



『ねぇ…早く手伝ってよ…なかなか切れないの…これじゃあ、駄目なのかなぁ…ねぇ…手伝ってよ…』



『!?』

眩しさに目を瞑った僕の耳に届いたのは、彼女のそんな言葉だった

そして僕は、ゆっくりと目を開いたんだ…

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あきゅろす。
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