誰かに聞いた怖い話
・・・古都9
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その時です

鋭い声色と共に、陣屋の引き戸が開け放たれ、中から立派な鎧装束に身を固めた、見知らぬ侍が現れたのです

次の瞬間塩売りは、先程迄話していた侍に引き倒される様に座らされると、平伏させられていたのでした

そしてその立派な身なりの侍は、塩売りの姿を一別すると、側に平伏していた侍に尋ねたのです



『如何致した』



『はっ、この者達が関を通して欲しいと』



『ならん、早々に……待て!』

言葉を途中でとぎらせた侍の眼は、荷車の側に両手をついて平伏しつつも、上目がちに己れを見つめる一人の男と、その男にしがみつく様に座っている小さな男の子に注がれていました

謀反の疑いで討たれた侍と、この立派な身なりの侍とは、旧知の仲だったのです

この時代は、戦の時に名乗りをあげてから一騎討ちをする程に、名誉が尊ばれていたのでした

亡き主人の忘れ形見を、無事落ちのびさせようとする男の狙いは、武士の情け…その一点にあったのです



『良い、行け……通してやれ』

彼は、そう荷車の男達に向かって、静かに言ったのでした



『片じけない…』

そう言った男の瞳は、濡れていました

そこに油断が生じたのです

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