誰かに聞いた怖い話
・・・御神木5
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男は狐に化かされたような怪訝そうな表情を一瞬その面上に浮かべブツブツと何やら呟いていたが、やがて気を取り直したように斧を振りかざし、銀杏の老木に向かって鋭い刃を打ち付け始めた…



コーン…コーン

男の繰り出す斧の一撃は…昨日怪我をした男とは打って変わり、バターの塊を良く熱したバターナイフで切るように、銀杏の老木の命を見る見るうちに削り取っていった…



コーン…コーン…

そこに居た人達だけでなく村人達も、老木と斧の奏でる音に何やら不吉な予感を掻き立てられていたらしい…



『旦那、後はあっし達がやりやすんで、旦那は見ていて下せぇ』



ガッ…ガッ…

現場監督はそう言うと、旦那と呼んだ男から斧を受け取り、銀杏の老木に叩き付け始めたのだが…どういう訳か老木には殆ど傷が付かなかった…

現場監督の方が、旦那と呼ばれた男より格段良い体格をしていたし…何よりも力仕事を生業としていたのだから不思議と言う他は無かった…



コーン…コーン…

やむを得ず現場監督に変わり、再び斧を振るい始めた男によって、銀杏の老木は一振り…又、一振りと命の炎を削りとられていった…





そして、老木の最後の時が来る

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あきゅろす。
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