誰かに聞いた怖い話
・・・退院10
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でも…



でも…私の記憶が、違うと主張するのです



事故の現場より先の道筋に張り出しているあの岩も、奇妙な枝振りのあの老木も、右側に急に切れ込むあのカーブも…何故か私の記憶に、しっかりと刻み込まれていたのです



此をデジャヴと言うのでしょうか?



いいえ…多分違うのでしょう

私達が向かっているキャンプ場へと、あの日は私達の魂だけが向かったのです



それなら説明が付くのです





『大丈夫ですか?』



運転しながらも私を気遣う後輩に私は小さく返答すると、尚も車外を流れ過ぎる景色の一つ一つに目を向け続けていたのでした



…私達は途中で事故に遭い、此から向かうキャンプ場には行かなかった…



…でも、あの湖畔の岸辺を洗う波の音や、楢やくぬぎの林を擦り抜ける風の音や、暗闇を切り裂く稲妻は…本物だったんだと思う…



…私達の魂は、間違いなくあそこに居た…



…でも、何故?



…分からない…



そんな私の自問自答の時も、終わりを告げる刻が来るのです



『…さん?』

『着きましたよ…多分此所で間違いな……』



私は聞いてはいませんでした

彼の言葉を、最後迄は…

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あきゅろす。
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