誰かに聞いた怖い話
・・・退院7
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勿論通過する時間帯によって町は様々な変貌を遂げ、いつも通い慣れた道ですら、まるで初めて来たかの様な錯覚を、往々にして人々に与えるものなのです

けれども、デジャヴの如きその記憶の一部は、正に私が数週間前に間違いなく目撃した景色で有り…

そして、その日の残りの記憶は、私が決して体験している筈の無い記憶なのです



私は友人達と一緒に休みを楽しむ為、あの日此の道を湖畔のキャンプ場へと向かっていたのです

けれども、あそこで…

此の車が幾つかのカーブを曲がり切り、直線をグングンと加速し、急なクランク気味のカーブに差し掛かる頃…私は目撃する筈です



私達の乗った車が、此の道を飛び出した現場を…



私の友人達の命を奪い去り、もの言わぬ躯にしたあの現場を…

そう…もう直ぐ私の目に入る筈…





私の足は、その場から動きませんでした

私は乗って来た車の側から、中々歩み出す事が出来無かったのです



でも、それは自然な事でしょう?

私の友人達の命を奪い…私の命すら奪い取ろうとした…あの死神の潜む場所…

でも、私は行かねばならないのです



その場に行って、確かめねばならないのです

あの事を…

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あきゅろす。
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