誰かに聞いた怖い話
・・・目覚め5
.
僕は崩れそうになる脆い斜面の土に悪戦苦闘しながらも、ゆっくりと車の方に降下したのです

下を見つめる僕の顎や鼻の頭からは、髪を伝い額を流れ落ちる雨水が伝い落ち、激しい雨にぐっしょりと濡れた僕のシャツの表面を、最早染み込みもせずに流れ落ち、僕は豪雨にかき消されがちな呼び声を更に大きくしたのでした





…私を呼んでいる…あの声は?



…多分…いや、きっと彼に違いない…



…でも、此処は何処?



…寒い…の?



…暑いの?



…分からない…ただ眠いだけ…



…私の名前を呼ぶのは誰?



…眠い…もう、私を寝かせて…



…私は、眠…いの…わた…し…は…



私の名前を繰り返し叫ぶ彼の叫び声が、無意識の内に私の記憶に刻み込まれたのは、きっと此の時だったのでしょう

私は此の時、多分無意識下の状態で、彼を特別な存在と認識したのです

特別な存在と…





『なぁ、彼は大丈夫かな?』



僕は彼女の後ろ姿に向かって問い掛けました
湖畔のキャンプ場に向かう林道の、道路脇のガードレールにもたれ掛かり、上から暗く険しい坂道を覗き込む彼女の後ろ姿に向かって、僕はそう尋ねたのです

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