小説 ねがいごと、ひとつ。 「知ってる?桜の花びらを空中で捕まえられたら願いが叶うんだって。」 新羅の言葉に、臨也は顔も上げずに答えた。 「ばかばかしい。そんな事で願いが叶ってたら、世界中の人間がお金持ちだよ。新羅はそんなくだらない話信じてるんだ?」 あきれたような臨也の言葉に、新羅は少し苦笑した。 「いや、静雄が昨日話してたんだ。」 静雄、という名前に反応して、臨也が顔を上げた。 「シズちゃん、が?」 「うん。結局、掴まえられなかったみたいだけど。」 「そう。」 そっけない答えを口にしながらも、臨也はその、静雄の“願い事”が少し、気になっていた。 ひらひらと舞い散る桜を、臨也は思わず目で追った。 “願いが叶う”なんて迷信を信じている訳ではなかった。 けれど、ちょうど目の前に落ちてきた花びらに、そっと手をのばす。 驚くほどあっけなく、桜は臨也の手に着地した。 「簡単じゃん、こんなの。なんでシズちゃんはこれくらい出来ないかなぁ。…捕まえようとするからだめなのに。」 臨也はどこか自嘲気味に笑った。 「あれ?臨也、くだらないとか言ってなかった?」 急に掛けられた聞き慣れた友人の声に、臨也は驚いて振り返った。 「新羅…」 新羅は子供のように目を輝かせて尋ねた。 「どんなことを願ったんだい?臨也のことだから…人間を知りたい、とか?」 「…願い事、は…」 少しうつむくようにして、臨也は言葉を続ける。 「シズちゃんが、」 俺を好きになってくれますように。 臨也は言いかけた言葉を飲み込んだ。 「今すぐに死んでくれますように、とか。」 あまり信じていないように、新羅は首を振った。 「静雄の願い事、知りたくない?」 「別に、知りたくなんか、」 臨也の言葉を遮って、新羅は言った。 「臨也が、どこにも行かないように、だってさ。」 「……馬鹿じゃないの?」 言葉とは裏腹に、うれしそうに笑った。 [次へ#] [戻る] |