小説
melancolia 1(オリジナル)
暴力、虐待表現があります。
「いやよ。あんな子引き取るだなんて…。」
「全く、迷惑ばっかり掛けやがってあの女は…。」
嗚呼、五月蠅い、五月蠅い、うるさい・・・。
周りは騒音ばかり。気が狂って仕舞いそうだ。いや、もう狂って仕舞って居るのかもしれない。僕はおかしいから。
僕は要らない子だから。
僕が彼女と出会ったのは、そんな、騒音の中。彼女は確かに僕に手を差し伸べて、薄暗い部屋の中に立っていた。
melancolia
意味:憂鬱。晴れ晴れしない落ち込んだ気分の事。
ep.1 嘘吐き道化師
僕に何か一つ足りないとすれば、それは愛情だと思う。僕は周りの人はおろか、両親にでさえも愛情と言う物を貰う事が出来なかった。虐待、されて居た。それも、つい最近まで。理由は未だに分からない。分からなくても良い。でもたぶん、ストレス解消の為だったんだろう。
物心ついた時にはもう毎日のように殴られた。お前なんて生まなきゃ良かったとかさっさと死ねとか沢山の罵声を浴びせられた。食事を与えられる事は殆ど無くて、残飯やゴミ箱の中身を漁って食べていた。学校にも行かせて貰えなかった。怖かった。苦しかった。今度は何されるんだろうって何時も怯えていた。殴られて痛くて怖くて泣いているのに、泣くと怒られてもっと殴られた。だからずっと笑って居る事にした。ずっとにこにこ、人形みたいに。殴られても大丈夫、ご飯が食べられなくても大丈夫、だいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶいたくないいたくないいたくない…自分に言い聞かせて自分を殺して。僕は「道化師(ピエロ)」になった。
本当は大丈夫何かじゃ無かったのにね。
そんな狂った日々から突然解放されたのはほんの1週間前。激しい物音を不審に思った近所の人が通報したらしい。両親は逮捕された。僕は別に何とも思わなかった。寂しさも、悲しみも、喜びもない。あえて言うなら、哀れ。ああたいほされちゃったんだねかわいそうに。そんな感情の籠って無い様などうでも良さの滲み出る文字の羅列が頭を過ぎった。両親が何かを言っている気がするがそんな事は聞く気にもなれなかった。
病院に連れていかれて、何でも外傷と栄養失調が酷いらしく暫く入院する事になった。
病院も退院して、まず決めなくてはいけないのは、僕が何処に引き取られるかという事。子供一人では暮らして行く事は出来ない。だから、今日其れを決める為に親戚が集まって話し合いをする事になった。けど、
「私は無理よ。これ以上子供なんて…。」
「じゃあ誰が引き取るっていうんだ!」
「そんなこと言うならあなたが引き取れば!?」
「なんで俺が引き取らなきゃいけないんだ!!」
「あんな餓鬼ごめんだ!!」
案の定、此処に居る皆が皆僕の事を引き取りたくないらしい。まあ、予想はしていたけれど。皆理由を付けて、押しつけ合って。馬鹿みたい。でも、大人達の心無い言葉は少しずつ、しかし確実に僕の心を抉って行った。僕は、部屋の隅で小さく蹲って座って居た。何時もの様に、だいじょうぶだいじょうぶと心の中で呟き続けながら。
これ位慣れてるよ、だから平気。だからだいじょうぶだいじょうぶだいじょ…
「大丈夫か?」
突如、頭の上から、透き通るような声が聞こえた。ゆっくり頭と目線を上げてみると、其処には。
綺麗な女の人が立っていた。
「…貴女は…誰?」
大学生位だろうか。この空間に不釣合いの綺麗な淡い金髪がふわふわと揺れていた。
「常盤雪羅。お前は?」
「僕は、八重垣深夜。お姉さん、日本の人なの?」
「ハーフって知ってるか?私は日本とイタリアのハーフ」
「だからそんなに髪が綺麗なんだね。」
「…あ、有難う…。」
雪羅さんは照れた様に俯いた。失礼かも知れないけれど、ちょっとだけ可愛いだなんて思って仕舞った。
「話を戻すけど、深夜。大丈夫か?」
「大丈夫だよ?あんな事言われ慣れてるし。だから心配しないでよ。」
「吐き。」
…え?吐き、うそつき。僕が?
「嘘吐くな、私にも、自分にも。…本当は、辛かったんだろ?」
「違う、違う、違う…。大丈夫、だから、大じょ、だいじょうぶじゃなくても、だいじょうぶじゃなきゃいけなくて、だから、だから・・・。」
「もういいよ、もういいから。」
今ひどい顔してるだろうなぁ、僕。でも、あんなに的確に、会ったばかりなのに、心の奥底の殺したはずの感情を言い当てられた。其れが何だか悔しくて、悲しくて。意味も無く大丈夫大丈夫と繰り返し呟く。
つらいよくるしいよいたいよもういやだつかれたなんでぼくが
そんな醜くどろどろした負の感情は、口には出せない。出しちゃ行けない。
張り付いた仮面は、中々取れない。
「大丈夫、大丈夫だもん。」
「もう良いから。」
でも子供の仮面なんて、直ぐ罅が入り割れて仕舞う。
「私は深夜の事酷く言ったり嫌ったりしない。傷付けたりしない。助けてって言って御覧?」
仮面はガシャンと音を立てて、割れた。
「………助けて………。」
一番言わない様にしていた言葉を言って仕舞った。其の言葉を切っ掛けに涙がぼろぼろと零れていく。拭っても拭っても涙が止まらない。
「ひぐっ・・・うっ・・・ふえっ・・・うあああああ・・・・・」
「ちゃんと泣けるじゃないか。」
雪羅さんは、僕が泣き止むまでずっと頭を撫でて抱きしめていてくれた。
僕にちゃんとしたお母さんが居たらこんな感じだったのかな…。よく分からないけど、今はただ委ねていよう。
この優しさに包まれた名前も知らない温もりに。
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