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勇者ものがたり
赤き騎士の日常




―――春の国



一年を通して温暖な気候であり、どこかのんびりとした気質を持つこの国において

『赤の騎士』と謳われる王国第一騎士隊隊長クレイグ・アルンストは、
その野性的で精悍な顔立ちから受ける印象に反し非常に気苦労絶えない日々を過ごしていた。


それも好き勝手する他騎士団メンバーによって起こる問題事、
それにより何故か自分に回ってくる後始末、
あげく届く大量の書類という名の切ない現実によって…。




「これでは文官のようではないか・・・」



各地に派遣された部下の報告書とどこぞのバカ共の始末書の山と向き合いながらクレイグは深くため息をついてそれぞれに目を通していく。

本来の騎士の本分とは何だったかと、疲れた心に思い浮かべながら






「ク〜レ〜イ〜グ先輩!ちょっと気張り過ぎじゃないっスか?ここは息抜きしといたほうがいいっスよ☆はいコーヒーでーす!」


とウインクしながらノックもせず部屋に入ってきたのは、先日盛大に器物損壊をやらかした後輩であり、思わず持っていたペンを折ってしまったのもいた仕方が無い。

「……レイン、ノックをしろと何度も言っているだろう。それとその妙な喋り方をやめろ。俺の事は隊長と呼べ」

頭が痛い。

「おっと、そうでした、すいませんたいちょ〜。
あ、でも別に今は他に誰もいませんしー、つか俺と先輩の仲じゃないですか♪」

レイン・ライヒェン

空色の髪にアイスブルーの瞳、精巧に整った容姿に、見た目だけなら冷徹な印象を受けさせるが、なにせ中身がこれだ。


酒場で飲みに付き合った際に『先輩、俺、自慢じゃないんですけど街を歩いてると必ずといっていいほど女の子に告白されるんですよ。けど話した途端みんな「コレジャナイ…コレジャナイの…」って言いながらどこかへ行っちゃうんですよね。これってつまり振られたってことですよねー、なんでかなー!あー彼女欲しいなー!』と酔いにまかせて愚痴を叫ばれ周りから痛い視線を送られたのも記憶に新しい。



「あ、先輩、これから団長のとこ行くんですか?なら丁度いいや。はい先輩、…これ、俺の気持ちです///」

「昨日の始末書か、うすら寒いお前の反省の気持ちとやらが書き溜められてるようだ」

「ひどい!俺はいつだって熱い気持ち込めてますよ!今や情熱のあまり五分で書き上げられます!」

「黙れ。もう喋るな。ただでさえどこぞのバカが真夜中、それもよりにもよって城下町のど真ん中で国の指定文化財損壊をやらかしたせいでこっちは寝不足なんだうっかり殺意のあまり手が滑りそうになる。
そもそもお前は反省という言葉の意味を理解しているのか?しているのなら何でもっと魔力の自重をしようと努力しない?

緊急であったとは言えお前は自分のその無駄に有り余る魔力の影響を自覚しているはずだ。
一体何を考えている?
見ろ。誰のせいで俺が毎日毎日書類と向き合う羽目になってると思っているんだ…!」

「え〜、今更w無理ですってww先輩も俺のノーコンがどれだけ筋金入りか知ってるでしょ?
まあ一応努力はしてるんですけどねー。少なくとも死人は出たことありませんしー。
それに毎回目的はちゃんと果たしてるじゃないですか。
あーあーもう先輩、もっと心広く持たないと。そんなんじゃ団長みたいに禿げますよ…おっと」

「そうか、始末書と共に今のも団長にしっかり伝えておこう」

「ヤメテクダサイお願いします」

どこの物好きがこいつを『氷の王子様』などと評するのだろう(本人が聞けばまず間違いなく調子に乗らせることになる)。完全に見た目だけのイメージだろうが中身を知らないと言うのは本当に幸せな事だ。
おおざっぱというにも限度を越えている感があるが、そのいい加減さを抜けばこれでも魔法の実力は群を抜いており、問題はあれど仕事自体は結果的に優秀であるのには間違いないのだから、質が悪い。





「あれ?それ、このところの魔物の異常行動が目撃されてるっていう噂の件の書類ですか?」

「ああ…」

「ふ〜ん、見たことない魔物ってどんなでしょうね?なんだかおもしろそうじゃないですか?知ってますか?これって異世界でいうフラグっていうんですよ」

「・・・お前はなんでそういうどうでもいい異世界の知識を覚えている?
ああいやいい、それよりこれは平然と笑っていられる問題ではないだろう。お前は他人事のように言うようだが国の平穏を護るのは俺達騎士の役目だということを忘れたか。この件に関してはすでに被害が各地から報告されているうえ、勇者選抜にも影響がでている。
これ以上我が春の国の民に被害を出さない為にも早急に原因を突き止める必要があるが・・・我々は今のところ何一つ手がかりを得られていない現状だ」

「あーはいはい。分かってますって。もう先輩ってばそんな怖い顔して真面目なんだから」

「はあ。もういい。お前は仕事に戻れ。まさかと思うが、2日後の視察の準備はもうできているんだろうな」

「え?視察…?はー、またですか?俺、もうマジで女の子成分足りなさすぎて死にそうなんですけど。この前のとこなんて右をみても左をみても野郎ばっかで俺このまま干からびるんじゃないかと」

「出 来 て な い ん だ な ?」

「は!先輩!俺、大事な用事を思い出しました!行って参ります!」

慌てて部屋を飛び出ていく後輩に、もう幾度目かの深いため息が出てくる。

ホントに…なんであいつが騎士でいられるのか疑問で仕方ない。


だが仕事は仕事。

勇者選抜においての騎士隊による視察は、それこそ長年行われている王国騎士の伝統でもあった。





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あきゅろす。
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