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勇者ものがたり
勇者ってめんどくさい

精霊に頼んだおかげで、あれだけ遭遇していた魔物がほとんど現れなくなり、順調に森を進んでいる。


もうすぐ村に着くなあと考えて、ふとユシアは思い出した。



「そういえば、お前、もうステータスは見たんだろ?」

「……」

「……?」

「み……」

「み……?」

「見てない…。」

「は?」

「もし、僕の職業が悪いものだったらと思うと、怖くて…」

トウマはそう言って困ったように笑った。

「あのな…。」

「そういうユシアはもうステータス確認したんだよね?なんだったんだい?」

「……」


勇者。


「……さあ?」

「?ユシアもまだ見てないってことかな?」

「…・・・まあそういうことで」

「そうなんだ。」

「あー、でも一応村に着いたら見ておけよ。
自分のステータスは把握しといた方が何かと戦闘にも役立つだろ。」

「確かに、そうだね。“勇者選抜”もあるし…」



また勇者選抜か…。何度か耳にするけどそういや聞いてなかったな



「…あのさ、ええっと、その“勇者選抜”って、いまいちよく分からないんだけど、一体なんなんだ?」


というか、勇者って選べるものなのか?
いやむしろ勇者が必要ってことは、魔王が生きてるのか?


「え…?絵本でユシアは読まなかった…?」

「ええっと、あ、俺、森で生活してたからな。そういうのとは無縁で」


実際は俺の時代のおとぎ話なら腐るほどおっさん(精霊王)から聞かされたがな。ほんとうぜえほどな


「そっか…そういえばそうだったね。

勇者選抜っていうのはこの『春の国』と『夏の国』、『秋の国』で行われてる国主催の試験なんだ。

内容は国ごとに違うらしいけれど…、ごめん、他の国のことは詳しくは知らなくて…。
ただ、100年ごとにそれぞれの国を代表する勇者がこの試験で一人選ばれるんだよ。

この春の国では特定のクエストを一定以上達成することがまず課せられてて、それをクリアすると豊穣の日に行われる大会の参加資格を貰える。
この大会で優勝した人が、この国を代表する勇者になれるんだ。


あとは…、

一応冬の国もそれらしきものはあるんだけれど、あの国は少し特殊かな。あそこは異世界から勇者を呼ぶらしくて…」


へー

どこからつっこめば…

あ、異世界ですか…

わー…


「な、なんでわざわざ勇者を?
勇者って呼ばれる奴がすでにいるだろ?」


俺みたいに
というか、選択肢があるというなら俺は二度と勇者になんぞならないぞ


「それは…、多分、純勇者様のことだね。
生来の勇者様はここ数百年、見つかっていないんだ。
魔王と対で生まれると言われているんだけど、それも本当かどうか…。


でも、だからこそ、勇者選抜試験があって、
元々は、700年前の純勇者様が魔王に敗れて人間側が滅びそうになったのを
冬の国が異世界から勇者様を召喚して防いた事が始まりなんだ。

だから勇者といっても、

生まれつきの勇者である“純勇者”様と
冬の国だけが喚ぶことができる異世界の勇者様と、
あとはこの勇者選抜試験で選ばれる勇者の3つがあるんだ。」



「へえ…。」


魔王ふるぼっこじゃねーか…


「歴代の勇者様の話はおとぎばなしにもなってるから、ユシアもいつか読んでみるといいんじゃないかな。

中でも神話時代と言われてる1000年前の始まりの勇者様は結構有名だよ」

「え」

「実際は700年前の戦いで初代の勇者様に関してはほとんど記録が残っていないんだけれど、

そうだな…例えば
初代勇者様が軽く手を振っただけで万という単位の魔物が散ったとか
その微笑みでその地一帯に精霊様の祝福が起こり花や植物が芽吹くとか
その姿は常に光を纏っていたとか…」


え?俺が?いやいや俺そんなんじゃないよね?
別に発光してないもんね?


「そういえば、どこかには、初代勇者様を信仰する宗教もあるらしいし」


そうか、絶対に近づかないようにしよう


「それに、僕も小さいころから初代勇者様には憧れてたよ」

「え…」

「家で過ごす時間が多いからね、どうしてもやることが限られてくると言うか…、だから、たまに本を読んだりもしたんだ。

中でも初代勇者様の話は何度も読んだよ。
1000年前の話はそのほとんどが創作だって言われてるけど、創作でも実話でも、
そこに描かれている初代勇者様は常にすごく生き生きとして自由だったから…。

小さい頃は、僕もこうなれたらいいのになって読むたび思ってたんだ」


「…そう…か。」


俺であって俺じゃないものの話。
何ともむず痒いような奇妙な感じがする。

「あ」

「ん?」

「村が見えてきたよ。ユシアもギルドに行くんだよね?」

「え、あー、そうだな…」


一応ステータスを確認したかったんだが、
話を聞いた感じ、勇者ってばれるのは面倒そうだし
どうしたものか…。







村の入り口にさしかかる。
相変わらず案内人が立っていたが、

「こんにち…、!!」


トウマを確認すると案内人は驚いたような顔をし、慌てて口を閉じ顔を逸らした。

「こんにちは」

そう言ったトウマの言葉に返事は無い

「……。」


ふむ…。




「ごめんね、僕といるときっと君まで…」

「問題ない。そんなことより、ステータス確認ってどこでするんだ?」
「…え、あ、うん。ギルドの受付に行けばいつでも確認できるけど」

「え…。あの変態の巣窟に…」

「え?」

「いや、なんでもない。そうかギルドか」

出来れば行きたくないが…
まあ姿変えが上手くいってるみたいだし、
平気…か?










村観光をほどほどに、
ギルドのあたりにまで来ると、何やらざわざわと人だかりができていた。


「赤の騎士様が、…」
「さすがに王都の騎士様は違うねえ」
「視察ですって。」


という言葉を聞き取る。

“王都”…?

嫌な予感がする。

というか、“赤”のって付くって事は他にも青とか黄とかいるんだろうか。どうでもいいけど


よりにもよってギルドの真ん前に人だかりができているおかげで、一度人と人の間に入り込んで扉まで辿り着かないといけなかった。

トウマと顔を見合わせ、面倒だが二人で人々の間を抜けるように進む。

その時だった。




「おいお前!この化け物!」

「!!…この声。」

トウマが声の方へと振り返る。

「あ…。」

そこには20〜30代ほどのチンピラとでもいうような男が数人固まってトウマをにやにやと見ており

その上、


「騎士様、こいつです!こいつのせいで俺達は魔物に襲われたんですよ!」




とんでもない事を言い出した。




揉め事を察知してか、ざっと人垣が割れる。


先程まで人ごみで見えなかったその騎士様と言われた男は、何人かの部下を引き連れていた。

赤い短髪と瞳を持ち、精悍な顔をした騎士の男は、チンピラの言葉に何かを考え込むような様子を見せる。
やがてトウマの方へと近づいてくると


「君がトウマ・ユリウスか?
悪いな、少し話がある。我々と共に同行してもらいたい」


と告げた。

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