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勇者ものがたり
零れ落ちてくる幸福の粒 ※トウマ視点



ヒソヒソ…。



―――本当に……?

―――村のはずれに魔物が……

―――またあの子が…

―――あの子のせいで、うちの子が怪我を

―――どうして外を歩いてるんだ…?

―――ああ気持ちが悪いったら。視界に入るのも恐ろしいよ

―――最近妙な事ばかり起こるのもきっとあの子の…





―――知ってるか?

―――何を?

―――あれの親、呪いの所為で死んだんだとよ





―――ああ何であんな子が生まれてしまったんだろう






何度も何度も聞いた言葉




耳を塞いでも染みついた声は消えない。




……。






それでも





僕は…




















『トウマ。』



『トウマほら、見てごらん。これはね、初代勇者様のおはなしだよ…――』
























「ん……。」

「…起きたのか?」


リン…と、
耳に伝わる心地よい、透き通るような声。
目覚めると、そこにはどこか懐かしさを覚えるような、祖母と同じ黒い瞳の少年がトウマを覗き込んでいた。


「君…は…? っ」

見覚えのない人物にそう言葉を口にした瞬間、寸前の記憶が蘇る。


そうだ…花園を見つけて…光を、見た気がした……

僕は…死んだのか?

なんだか頭が重く感じる…
でも、
だとしたなら目の前にいる彼は…

「天使…?」
「違う」


即答で返された。




「……。」


ぱちりと瞬いて、ほんの少しだけ意識が覚める。

あれ?天使じゃないのか、少し残念だな…。
もしかしてあの世というのは、僕が昔読んだ本とは少し異なるのだろうか?

ここは天国?
それとも地獄…?


ふと、
―――何かがおかしい
と頭のどこかで考える。


いや

だけど、もうそんなこと、死んでしまった今となってはどうでもいいことじゃないか。


…そうだ。

僕は、結局何も出来なかったのだから…。



そうして暗い思考に沈みそうになったとき、目の前の彼が一つ溜息をついた。

呆れられたようで、つい彼の方を見てしまう。

そして、ふと気づく

見返される瞳は、まっすぐに僕を見ていた。

そこに何も含みが無いことに、その事実に、どこか信じられないような気持ちで瞳に見入ってしまう








「てい。」

ぺしっと額に軽い痛みが走る。

「あいたっ。…ん、あれ…?」


痛い…?

「現、実…?」



「おはよう。一応自己紹介しとくけど、俺はユシアだ。最近この森にお邪魔させてもらってる旅人的な何か?だと思ってくれればいい。
覚えてないかもしれないが、お前はここで死にかけていて、それを偶然見つけた俺が治療したんだ。
それで、だ。
身体はどうだ?手を抜いたつもりはないが、動けそうか?」


「えっ?!」


その言葉に起き上がって慌てて確認すれば、抉れていたはずの脇腹は破けた服があるだけで、全くの無傷だった。
…それだけじゃない。
腕の傷も、身体のあちこちに残っていた古傷も綺麗に消えている。


「どうして…。」

幼い頃から怪我をしたときは、なるべく自己治癒や薬草にまかせていた。
僕には魔法による治癒が効かないはず、なのにこれは…


「ほら」
「へ…?……むぐっ!」

ぽかんとしていたトウマの口に小さく丸いものが突っ込まれた。
反射的に噛んでしまったそれから、途端にじわりと甘みが口に広がる。
昔、何度か食べた事のある懐かしい味だった。
一体何年ぶりだろうか



「イチの実だ。疲労回復の効果がある。
あとこっちの実はココナの実、体力回復、こっちは、まあ大丈夫だと思うけど毒消し、一応口に含んどけ
…こっちのはMP回復…だけど、これは駄目だ。俺のものだ」



ユシアという少年は何か言うでもなく次から次へと傍らの籠から実を選び取って、トウマに差し出した


その様子に、慌ててトウマは口に入った実をもぐもぐと租借し始める。




美味しい。



「あ、あのっ。助けてくれて、ありがとう。僕はトウマ。トウマ・ユリウスだ。
えっと…そうだ、この実!すごく美味しいよ。
これって回復の実…だよね?
ここのところほとんど手に入らないって聞いたのに…
すごいね、ユシアはどうやってこんなに集めたの?

あっ!え、えっと、いや違うんだ。それよりも…」


思えば祖母が亡くなってからは、トウマはほとんど人と話すことが無くなった。
トウマの呪いを恐れて
勇者選抜の開始時でさえ皆が極力トウマとの接触を避けようとしていたのだ。
ギルドの規定とはいえ、パーティを組めたこと自体奇跡ともいえる。

どうしよう、上手く言葉にすることが出来ない。

君は一体何者なのか?
どうしてここにいるのか?
ここはどこ?
どうやって僕を助けた?

違う、そんなことじゃない。

「どうして…」

“どうして僕を助けて、くれたの?”


「…っ」

その一言が、声にならない。
何度も囁かれた村人たちの声が耳に響く



そんなトウマの様子を見ながらもユシアは一瞬、目を逸らしたかと思えば再び目線を合わせた。


「そうか、トウマっていうんだな、覚えておくよ。
で、だ。先に言っておく。

…まあ色々と聞きたいことがあるだろうが、
俺はそのほとんどに答えるつもりはない。

というか、できればここの事も誰にも話さないでほしいんだが…。
…頼めるか?」

ほんの少し首を傾げて、じっとこちらを見つめながらユシアが言う。そこに僅かな警戒心をトウマは読み取った


「…君が、そう言うなら。いいよ」


だからトウマは微笑んで頷いた。









大丈夫

自分を助けてくれたユシアの望まないことはしたくない。
だからもう何も聞かない。

だから目の前に引かれた一つの線が見えても
いつもの事だから何も思わない。
大丈夫、大丈夫


でも、今日は色々あったせいか、
なんだかいつもより疲れたな…それに

何だろう、頭が、痛い




と、

突然ぽむっ、と優しく暖かな手の感触が頭に乗せられる。
さっきまで感じていた頭の痛みが引いていく


「あー、いや、えーっと、悪かった。嫌な気持ちにさせたんだよな多分

イチの実って美味しいだろ?これ俺も好きなんだ。
俺、ここじゃないけど元々は森で育ったからな、そういうの見つけるの得意なんだ。

その…、言い方が悪かった。ごめんな?
ここの事とか、俺の力については答えられないけどさ、それ意外ならできるだけ答えるから。

だから、いいか?

何だか良く解らないが、その“声”に耳を傾けるな。
大丈夫、お前は俺が助けた命だ。
ちゃんと最後まで責任もって守るから」



幼子にするように柔らかく頭を撫でられる
その慣れない暖かさに、どうしたらいいのか分からない。
知らず恥ずかしさから顔が熱くなってしまう。


「…あ、あの。」

「あ、悪いついつい。

そうだな、日が沈む前にはお前をちゃんと送り届けてやるよ。

けどまあ、まずはそれ食べてから村に行こうか?」

そういって、ふわりとユシアが笑った。

トウマは、自分に対してこうも屈託なく接する人物を知らない。

渡された実を見つめながら、言われた通り、もぐもぐとそれらを食べ始めた。















一つ、ユシアについて気付いたことがある。


じっと見てみたユシアは、これだけ近くにいるというのに不思議とその特徴が上手く掴めない。



しいて言うなら普通の、何処にでもいる少年という感じなのだけれど、何故か目が惹かれるのだ。


よくよく見れば、その黒い瞳が不思議な輝きを持っていること、
それに長い睫毛、白く透き通る肌理細やかな肌、血色のいいふっくらとした唇も、

ユシアの顔立ちを構成するそれら全てが誰よりも繊細に整っていることに気付く

多分、これは人の容姿に疎い僕でも分かる。
ユシアはとても綺麗だ。

なのに一目では誰も気付かない。


これもユシアの力が関係しているのだろうか?
どうして隠しているんだろう?


誰かに対して、こんな風に興味を持ったのはもういつ以来だったろうか。
それが、ただ純粋な気持ちから生まれるものなのか、
それとも諦めていた何かを求める故の衝動か、
トウマ自身にも分からなかった。

けれど

「そういえば、その怪我はどこで受けたんだ?
見たとこ魔物によるものっぽかったが、お前はそんなにレベルも高くなさそうだし…一人で森の奥まで入ってきたのか?」




その言葉にトウマは、現実に引き戻された。





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