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勇者ものがたり
まずは自己紹介をしてみる、飯食え




ゆっくりとその瞼が開いていく。
光を受けたその瞳は、翡翠の色をしていた。



「…起きたのか?」
「君…は…? …っ!?」

ここがどこか分からないと言った表情で、少年は虚ろに視線を彷徨わせていたが、
途端に何か思い出したのか、ふとユシアを見て



「天使…?」
「違う」


訳の分からないことを言い出した。


おいやめろ、今一瞬で助けたこと後悔しそうになっただろうが。










「???」

「……はあ。」

どうやらまだ少し覚醒しきれていないらしいな、ぼんやりとしている。

仕方ないので

「てい。」ぺしん。
「あいたっ」

目覚めよ。

と、でこを叩いてやった。…ちょっと良い音がした気がする。

「…ん、あれ…?現、実…?」

少年はようやく何かおかしいと気付き始めたのか、ぱちりと目を瞬かせる。どうしよう、まさかこいつ天然ってやつなのだろうか


まあいいか、さっさと現状説明してしまうことにしよう

「おはよう。一応自己紹介しとくけど、俺はユシアだ。最近この森にお邪魔させてもらってる旅人的な何か?だと思ってくれればいい。
覚えてないかもしれないが、お前はここで死にかけていて、それを偶然見つけた俺が魔法で治療したんだ。
それで、だ。
身体はどうだ?手を抜いたつもりはないが、動けそうか?」


「え!?」


俺の言葉に、すぐさま少年が起き上がり慌ただしく怪我の確認をし始める。
真っ先に確認している脇腹は、破れた服の残骸があるだけで、その下に無傷な肌が見えていた。


「どうして…。」


信じられないという表情で少年が呆然と呟いた。

精霊魔法が効かなかったこともあるのだろう。
何やら色々と事情がありそうだが、
とにかく、無事に回復できたようで何よりだ。

実のところ呪文がうろ覚えすぎて少々不安があったため、尚更安堵した。



……と、同時に冷や汗も。

仕方ないとはいえ光魔法を使うのは出来れば避けたかった。
光魔法というのはつまりそれを使う=勇者という方程式が成り立つわけで、もし今こいつに細かいことを突っ込まれたら、非常にまずいことになる

よって

「ほら」
「へ…?……むぐっ!」

ぽかんと丁度良く開いていた口にひょいと籠から取った小さな赤い木の実を突っ込んだ。余計なことを聞かれるまえに塞ぐぜ作戦である。(適当)
関係ないけど、ここらへん木の実少ないんだよなー。なんでだろう。
それに俺のいた時代より精霊の気配も薄いような…


「イチの実だ。疲労回復の効果がある。
あとこっちの実はココナの実、体力回復、こっちは、まあ大丈夫だと思うけど毒消し、一応口に含んどけ

…こっちのはMP回復…だけど、これは駄目だ。俺のものだ」

絶対にやらんぞ、絶対にだ!










…今回の光魔法もそうだが、

どうやら、俺の身体は1000年前より随分と弱体化してるらしい。

前ならそれこそ光魔法で蘇生だって出来ただろうが、それも今は無理そう。

なんだかなあ…。

あれだけひたすらに戦い続けて得たものが、こうもあっさり消えているのは、何だかとても、虚しい。





いっそ、1からやり直せると考えるべきなんだろうか?



魔王はいない
俺を勇者と呼ぶ者もいない


それなら例えば、ただの村人としてのんびり過ごすのもいいのだろう。

でも

そう考えて、ふと、あの“精霊の森”が思い出される。

なんとなくあの精霊王のおっさんの顔が見たくない気がしなくもないのだ。本当に、なんとなく。






必要のないいくつかの薬草や花、木の実などは道具袋に仕舞い込みつつ、
次から次へと傍らの籠から選び取って少年に差し出す。

普通の回復が効かないなら、これからいくらでも薬になるものが必要になるだろう


途中から無心になっていたらあっという間に実が少年の腕いっぱいになっていた。
そんな俺に、少年は慌てて口の中の実をもぐもぐと租借して飲み込むと

「あ、あのっ。助けてくれて、ありがとう。僕はトウマ。トウマ・ユリウスだ。」



と言った。


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あきゅろす。
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