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勇者ものがたり
願った奇跡




当たり前だが、村を出たことのないトウマに戦闘の経験などあるわけがなく。

突如現れた魔物に、それでも脇腹や腕の一部を食いちぎられただけでなんとか逃げだせたのはまさに奇跡だった。





途中まで執拗に追いかけてきた魔物は、不思議なことにある地点からそのスピードを落とし

そして幾度目かにトウマが振り返った時にはいなくなっていた。



けれど流れる血の匂いにいつまた魔物が襲ってくるとも限らない。
だといって、戻ればあの魔物が待っている。




半ば無意識に、トウマの足はふらふらと森の奥へと向かっていた。



























『 生きたい 』



このまま死ぬと頭では分かっていても、そう願うのは止められない。

どうにかして生き延びたかった。













ふと、

風が頬を撫でる。

「!」

俯いていた足元の視界が突然明るくなり、つられるように顔を上げれば




「え…?」









“花の楽園”が



そこにあった。















舞い散る花びらがトウマを迎える様に包み込む。
まるで別世界に迷い込んだようだった。

その光景を見た瞬間、今までなんとか張りつめていた気が一気に抜け落ちていく。

もはや立つこともままならず、倒れこんだ身体はやわらかな土や葉に受け止められ、


ふわりと舞い上がった花の香りに


ふと祖母がよくトウマのために買ってきてくれた花たちを思い出す。











『大丈夫だよ、トウマ。あんたはきっと強い子になれる』

亡くなる前に祖母が残した言葉。

その言葉になんとしても、応えたかった。



「ご…めん、ばあちゃ…」




どうしようもない悔しさが胸を占める



「――…。」


歪んだ視界は死を迎える合図か、
暖かいものが頬を伝うと共に、視界は徐々に狭まり暗くなっていく。

…やがて抗い難い眠気に、意識を手放そうとしたとき








―――い―…きてるか―――?













トウマは“光”を見た。










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