勇者ものがたり
プロローグ
ある日ある時、聖なる森と呼ばれていたその森に、突然赤子の大きな泣き声が響き渡った。
そのあまりに大きな"意志(こえ)"に森に住まう精霊たちは驚き、すぐさま声の元へとかけつけた。
するとそこには白金の髪と瞳を持つ愛らしい赤子がおり、
その赤子は精霊王からユシア・アレーデと名づけられた。
やがてこの赤子が後に初代勇者として語り継がれることになる。
――14年後
森の開けた小さな広場にて、気だるそうに切り株に座り込む少年が1人。
光をそのまま反射するように輝く柔らかな白金(プラチナ)の髪と、同じくきらきらと高貴な色に輝く瞳を持つ少年は、どこか神秘的な雰囲気を纏っていた。
人としては整いすぎたその容姿や華奢な体系も、どこか近寄りがたく、初めて会った者がユシアをみればまずこの世の存在であることを疑い、次にその中性的な容姿から男か女かの判断に迷うだろう。
ユシアとしてはどこからどう見ても男だろうといいたいところなのだが。
『ユシアはもうこんなに大きくなったのだな』
とデレデレと目じりをたれさせながら言うのは、この森に住まう、精霊の長である精霊王だ。
七色というまさかの色を持った長い髪と瞳、その整った顔立ちはいまや見る影もなく、
わざわざ自分の持ち場である湖から離れてまで、
本日もお昼ごはんを食べるユシアの元へと遊びに来ていた。
「そうだなー。」
と、さっきから頭をなでなでするうっとおしいおっさん(精霊王)の手を片手で叩き落としながら、ユシアはむしゃむしゃと木の実を食べた。早く帰んねえかなこのおっさん、仕事はどうした仕事はとか内心思いつつ
『ふふふぐふふ、ユシアの花のような愛らしさは年々増していくようだのう。どれ、ユシアよ、ちょっとものは試しに
そろそろ、わわわ私をお父さ…いや、パパと呼んでくれぬか?』
「ええーぱぱ気持ち悪いー。つかさっさと湖に帰れやおっさん、大精霊どもがそろそろ泣き出すぞ」
『ぐほおっ////ユシアが私をパパと!パパと呼んでくれたー!!』
「ちっ」
何やら地面で悶え始めた精霊王を見つつ、これでも自分の育ての親かと思うと、ユシアはいつもやるせない気持ちになる。
しばらく目の前でくねくねする精霊王を腐ったゴミにたかる蛆虫を見るような目で見ていたが、
そんなユシアの周りに小さな光がチカチカと色とりどりに瞬き、癒すようにあたりを漂いはじめ、
『ゆしあ』
『このみ』
『おいしー』
『おいし?』
『ゆしあ』
「うん、とってもおいしいよ、ありがとう」
そう、ふわりと微笑めば、小さな光――精霊たちは喜ぶようにより強くキラキラと輝いた。
通常の精霊は火の粉のように、小さく瞬く光の姿をしている。
青い光は「水」、黄色い光は「地」、赤い光は「火」、緑の光は「風」というように、それぞれの属性の色を持ち、
この精霊たちは精霊王や大精霊とは違い、あまり言葉をしゃべることができない。
そして単純で素直だ。
ユシアのために作り出してくれた甘い実を、ユシアの元へと持ってきてくれたのもこの普通の精霊たちである。
常になつくように傍にいてふよふよと漂う姿が愛しくて仕方ない。
『なぜその笑顔を私に向けな「自分の胸に手を当ててよく考えろおっさん」
『ぐはぁっ!!』
「・・・・・・」
不思議なことに通常は人間には見えないはずの精霊を、ユシアは生まれつき見ることができ、また会話をすることができた。
お腹が空いたと呟けば、精霊が森の木々に実を成らせ、のどが渇けばどこからともなく目の前に水が集ってくる。
寒くなれば風の精霊が気温を調整し、火の精霊が火をおこし暖めてくれた。
いわゆる魔物が出ても精霊達が力を借してくれるので、魔法を使わずとも楽に対処ができた。
人間とはかかわらないはずの精霊にユシアは護られ、異常ともいえるほど好かれており、
ユシア自身も、この精霊王のおっさんを除けば、常に傍にいつづける精霊たちは本当にみな可愛らしく、そして愛しく感じていた。
そうしてある意味最強の精霊の加護を得ていたユシアは何不自由なくすくすくと育ち、気ままに森を走り、
動物たちと戯れ、モンスターや魔物を弄り、また時たま森に迷い込む人間や亜人とふれあい、
時には自分から森の近くに存在する村へ遊びにいくなど
それはもうユシアは楽しく生きていた。
ユシアのステータスをある村で、興味本位で確認するまでは。
――1か月後
「どうしてこうなった。」
ユシアは一人で世界中を巡る旅に出ていた。
きっかけはステータスを村の水晶で確認したこと。
その日から数日、王都とやらから使者がきて、あれよあれよと色んなものを押し付けられて、気が付けば魔王退治に行かされている。
旅立つ際、精霊王のおっさんが暴れそうになり、なだめるのには苦労した。
とにもかくにもどうやら俺は勇者というものらしい。
そんでもって、最近魔王とかいうのが現れて、魔物の力が強くなっているとかどうとか。
魔王を倒せるのは勇者しかいないという謎の理論で、無理矢理役目を押し付けられ、むかついたので王都から援助を(脅して)それなりにかっぱらいこうして旅に出ている。
まあそろそろ外の世界とやらをぶらりと散策しようかと思っていたところだからちょうどいい、
俺なりにこの旅を満喫するとしよう。
まずはレベルをあげて、アイテムを揃えて、スキルも覚えて、できることは全部やりつくす。
せっかくだ、この世界を全て旅して回りたい。
魔王?
ああうんそのうちね。
後に勇者なんて面倒な役目を引き受けたことをほんの少しだけユシアは後悔することになる。
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