* 6 母親の記憶はない。 父親の記憶もない。 弟の記憶もない。 俺にあるのは祖父の厳しい教育、視線、体罰。 「千暁」 話しかけられ、その方向に視線を向ける。そこには宮木原がいた。いつも笑っているこの男は昔からこうだった。 「相変わらず無愛想だなー、お前。少しは笑え」 「・・・」 顔の筋肉を使うのは苦手だ。仕事の取引の時でない限り、どういう表情をしていいか分からない。 「ま、いーけど。どう?仲良くしてるか?」 含みを持たせた言い方。宮木原は千代のことを知っている。 「お前に関係ない」 「にゃはは、どーせまた話も聞いてやってないんだろ、お前はコミュニケーション下手だからな。仕事以外は」 本当にうるさい。俺が千代とどうしているかなんて俺が知ってればそれだけでいい。それを知ってどうするんだ。 千代をはじめてみたとき初めて心の奥底が沸き上がった。俺と同じ色の瞳。彼が俺の"家族"。俺の、唯一の、 けれど千代は俺を否定した。 お前なんか知らないと。 家族は、お前じゃないと。冷たく、突き放された。 (何故?何故俺を否定する?) 瞳の色も同じだ。 DNA鑑定だってそれを証明していた。 それを見せたとき、千代の顔は絶望の色をみせていた。 (どうして、そんな顔をする。) 分からない。 分からない。 分からない。 俺は嬉しかったのに。 鑑定書を引き裂く千代を見て、俺はどうしていいか分からなくなった。 どうして? 離れていく千代を捕まえてその体を暴いた。どうしてそんなことをしたのか。俺に男を抱く趣味はなかった。ただ、千代と繋がりたかった。ひとつになりたかった。 これ以上、離れていってほしくなかった。 今朝、千代の首に首輪をつけた。鍵つきの。GPS内臓機能つきだ。千代を鎖で繋ぐつもりはないが、最悪それも考えなければならない。 (千代) 俺の、家族。 たった一人の兄弟。 [*前へ][次へ#] [戻る] |