* 7 ふ、と目が覚める。目の前にはぐっすり眠る風次がいた。それを冷静に見つめる。そして起こさないようにそっとベッドから抜け出した。 腰が痛いのを押して目的の場所にたどり着く。 そこはかつて母の部屋だった場所。 「はは、うまく、いった。」 弟が俺の体を求めてきたのは好都合だった。家族という名前よりもさらに強く結びつくことができる。風次を縛り付けることができる。 『ひとりぼっちになるよ』 生前の母の言葉。これには続きがある。 『だって鳳一、私の子供じゃないもの。あなたはね、ユリエの子供よ。ユリエったらすぐに色んな男と寝ちゃって。おろし損ねて産んだのがあなたよ。ふふ、鳳一の節操のなさ、ユリエそっくりで笑えた。血は争えないのね』 母は、俺の中に俺ではない人を見て話す。その瞳には激しい愛情が見えた。そこで理解した。母は、俺ではなく、俺の母親を愛していたのだと。 『貴方が寂しくないように風次を身ごもったわ。父親なんて、私も知らない。・・・鳳一。私はユリエを愛していたし、ユリエの息子の貴方を愛している。これからも、貴方の幸せを願っている。だから、1人にならないように、ちゃんと風次を縛り付けなきゃダメよ。貴方にまさか、精子がないなんて思わなかったけど。でもいいの。ユリエの子供と、私の子供。2人だけが家族よ。ふふ、ふふふふ、ああ、なんだか私とユリエが家族になれたみたいで嬉しい。まぁ風次もなんだかんだで貴方のこと大好きだから心配いらないと思うけれど。』 母が優しく髪を撫でる。歪んだ瞳が俺を見つめた。俺の知らない母親がそこにいた。 母の言うとおり、書類関係は自分が行った。死んだ後のことを母は毎日毎日俺に細かく指示を残した。毎日に追われる自分の心がバラバラになりそうで。いや、どこかでかけてしまった。 こうやって母の部屋に来てしまうのを、明日の俺はきっと覚えていない。 弟を自分と母親の都合で縛り付けた罪悪感で死にたくなるのを、明日の俺は覚えていない。 「ごめんな、風次、ごめん。ごめんなさい、」 冷たい床にうずくまる。全裸で肌寒いけど、そんなこと気にしていない。嘘と偽りのハリボテの自分。懺悔をしないともっと自分が壊れていく。 孤独がなんだ。 そんな人、たくさんいるのに。 家族が作れないからなんだ。 大切なことはそんなことじゃないだろう。 それだけが、全てじゃないのに。 俺に食いつぶされる風次。 母はそのために産んだのだから気に病む必要はないといった。 なにも、知らない風次。なにも知らない、血の繋がらない、偽りの家族。 それでも、もう手を離さない。 ゆっくりと、目を閉じた。きっと明日には風次が怒って俺を起こしにくるだろう。俺はどうしてここで寝てるのか分からずにいるんだろう。そして、日常が流れていく。風次を家族という名前で縛り付けて、我が物顔で愛を貪るんだ。 これからも、ずっと。 終わり [*前へ] [戻る] |