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3
高校に入学しても、俺は特に変わらなかった。積極的に友達を作るわけでもなく必要最低限の会話を他人と交わすこともなかった。祖母と二人暮らしのため学校が終わるとアルバイトに徹した。そうやって毎日が過ぎていく。そういうものだと思った。



「南条だ。」



バイト中に声をかけられて顔をあげる。誰だろう、と思い制服が自分のと同じだったことに気がついた。男はそれ以上何も言わずお金を支払って買ったものを持って店を出て行った。軽く着崩した服装に茶色い髪。男は案の定クラスメイトだった。割と派手なグループに入っていて、クラスの中心的人物だった。そんな男を見ているとふと目が合った。男は特になんのリアクションもせずに目をそらした。それがどうしてか悔しく思い、俺は男と視線を合うまで見続けた。



「お前、俺のこと見過ぎ」

帰宅途中に男に声をかけられた。それに驚くも、男は特に表情を変えずに、俺を見ていた。俺より背が男の方が低いため少しだけ見下ろす。色素の薄い瞳から感情を読み取れず、だからと言って俺が口を開くこともなく沈黙が続いた。男はため息をひとつついた。


「ま、いいけど。今日バイトじゃねーの?」



男の問いにうなづく。男はふーんと言って歩き出した。俺はその場に佇んでいた。男は振り向き俺に告げる。



「帰らねーの?」


男、早水は俺の家と方向が一緒のようだった。早水はべらべら喋る人間ではなく独り言みたいに喋った。あの派手なグループにいるような感じには思えず、落ち着いた印象だった。



それから俺はずっと早水を見続けた。早水は学校で俺に話しかけることは滅多になかったけれど、時々一緒に帰った。



「いっつも早水こと見てるよね?ホモなの?」



いきなり、そんなことを言われた。その女は早水のいるグループの一人だった。長い髪に短いスカート。はじめたばかりのメイクは所々よれていた。ホモ、男が好きなのかという質問か、と考えた。俺は別にホモではない。男に欲情したことはない。だからと言ってウリをしていたため、女に対しては嫌悪感の方が強い。



「ねぇ、ほんとさー喋んないよね。髪ももっさいしさー。髪切ったら?キモいんですけど、」


「みき、なに南条と喋ってんの?」


「なになに?」



気がつくと周りに人が集まってきていた。鬱陶しいと思い席を立つ。俺を見下ろしていた奴らを見下ろす形になる。けれど視線を合わせることなんてしない。その場を離れようとすると教室に早水が入ってきた。ふと、視線が合う。すると、女が大声でこう言い放った。



「南条、早水のこと好きなんだってー!!」


周りの人間が一気に囃し立てはじめた。声がうるさくてその言葉を拾う気にはなれなかった。笑い声が響く。狭い箱の部屋はそれを響かせた。けれどそれを気にする余裕はなかった。早水を見つめるのに夢中で。



「あっそ。」


早水は興味なさげに呟く。視線は外されて早水は席に着いた。こっちを見る様子はなかった。それを残念に思い、俺は教室を出た。授業が始まるのなんてどうでもよかった。なんだか何もかもどうでもよくなっていてそのまま家に帰った。祖母はびっくりして体調が悪いのか心配したけれどなんでもないと言って自室にこもった。けれどバイトまで休むわけにはいかないのでバイトには出た。



「ズル休み。」



もう少しでバイトの時間が終わるときに早水はやってきた。いつもと変わらない表情。早水の手には俺の鞄があった。そこで鞄を忘れたことを思い出す。


「もう少しであがりだろ。」

早水はそう言って店を出た。バイトの時間が終わり店を出るとそこに早水はいた。おつかれ、と言って鞄を渡してくれた。ごめん、と謝ると別に、と言われる。会話はすぐに終わった。早水は昼間のことには何もかも触れなかった。



「南条」


ただ、視線はいつもよりよく合う気がした。

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あきゅろす。
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