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そんな毎日が続くなか、ある日自宅に母方の祖母がやってきた。祖母は俺が母親と過ごしていると思っていたようでまさか育児放棄されてるとは思ってなかったらしい。なぜそれがわかったのかというと母親が彼氏と事故で死んだからだった。母親は彼氏と住んでおり、彼氏は俺の存在を知らなかったらしい。俺の父親に連絡し住所を教えてもらいここにきたのだと。祖母はごめんね、ごめんねと泣き崩れ俺を引き取るといった。祖母の家は地方で俺は転校することになった。これで女たちとも縁が切れることになる。セックスに依存する女たちに未練はなかった。向こうはいつでも連絡ちょうだいと言ってきたが俺を見ながら俺じゃない人を思って自ら腰を振る女たちにわざわざ連絡する気なんてなかった。



祖母の家で暮らす、それは俺が中学3年のときだった。



田舎の学校はクラスは一つしかなく、俺は母親に捨てられたかわいそうなやつという噂を取り巻き転校した。どいつもこいつもこそこそとウワサ話をしては俺を遠目に見た。それが居心地悪くて、気分が悪かった。基本的に根暗のため人と話す気にもなれず俺はクラスでも一人だった。



そんな俺に声をかけたのが、穏やかな顔立ちをしたクラスメートだった。彼は俺の前の席でよろしくとはにかんだ。彼は学校のことをよく教えてくれた。移動教室の時はいつも声をかけてくれた。どうしてこいつは俺に構うのか、疑問にも思ったけれど俺は誘われるまま彼の後を追った。




教室でぼんやりと授業を受ける。窓際の席だったため空を俺は眺めていた。すると、外から鶏が叫ぶような声が聞こえた。周りからまたあいつだよ、と声が聞こえる。キチガイと呼ばれる奴は飼育小屋の鶏の首を絞めては緩め、絞めては緩めを繰り返し笑いながら鶏の声を聞いているのだという。自分が飼育係の日に、奴はたまたまやってきた。そーじ中?と聞かれたため、こくんとうなづいた。やつは、へぇと言ってすぐに鶏の後を追いかけた。




そしていつものように鶏の首を絞める。甲高い鳴き声が響いた。それを眺めていたら、奴はそれに気がついたようで、俺に声をかけた。いい鳴き声だよね、と。俺はよく理解できなくて何も言わずその鳴き声を聞いていた。




それからというもの奴は俺が飼育当番の日は必ず鶏小屋にやってきた。そしていつものように鶏の首を絞める。笑いながら鳴き声を聞く奴に俺は聞いた。飽きないのか、と。奴は言った。飽きないね、と。好きなことは、いつまでもやってたい。そういった。君もやってみなよ、そう言って鶏を差し出す。ギィギィ鳴くそれを手に取る。絞めて、と言われるままに首を絞める。鳴き声は酷くなるも、意外と耳に入ってこなくて、生きているものの命を握る感覚に心臓が早鐘を打つ。息が荒くなり自分が興奮しているのがわかった。奴がそれ以上絞めると死んじゃうよ、と言うまで首を絞めていた。




大丈夫?と穏やかな声が俺を包む。顔をあげると彼が俺を見下ろしていた。教室に戻った俺はまだ鶏を首しめた手を眺めていた。その様子がおかしかったようで彼は心配する声で俺に聞いた。大丈夫?と。見つめる手を彼はつつんでくれて、にっこり微笑んだ。次、移動教室だよ、と。





俺の中で彼と奴は正反対だった。穏やかで優しい彼と、キチガイで刺激的な奴。誰かが言っていた。自分を癒してくれる存在と自分と一緒に堕ちていく存在とどちらがいいかと。俺は考えた。正直想像がつかなかった。自分が誰かと一緒に生きていくことこそ、想像がつかなかった。誰にも、必要とされたことがなかったし、自分自身、誰も必要としなかった。




彼と奴とは高校で別れた。




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