* 1 「お前って、簡単に殺せるんだな」 そう俺ににこにこと笑う男が言った。俺にはその意味が分からない。なぜ?王の命令は絶対だ。法律だ。背くことなどあり得ない。王に拾われたあの日から、俺の全て。あの方がそうしろと言うなら、何を迷うか。 猫っ毛のふわふわした髪が揺れる。190センチある自分から見ると彼の頭のつむじまでよく見えた。 それがこちらを振り向く。 「なぁ、ダイキ。おまえはさー自分の親も殺せと言われたら、殺すの?」 親。こくん、と頷く。顔も知らないので、他人となにも変わらない。 「仲間も?」 「命令ならば」 王に命令されたのならば。それが、 「俺のことも、殺す?」 茶色い瞳が歪む。彼はふふ、と笑いながら俺から離れていった。 王直属の暗殺部隊として俺たちは同じ隊にいた。彼−トキは部隊長でありながら軟派な性格でふらりふらりとする、まるで猫のようだった。 王に拾って頂いたあの日、部屋にいたのは彼だった。 『やぁ、ダイキ。俺はトキだよ』 そのときはまだトキの方が身長が高くて、俺はいつもトキを見上げていた。いつも笑顔で、優しくって。俺が訓練や任務で失敗したとき、俺をベッドの中にいつも入れてくれて、頭をなでてくれた。 (王の、命令、) だったら、どうする? そんなこと、考えたこともなかった。 [次へ#] [戻る] |