5 夜も更けた時間。人の気配を感じて襖を開けると縁側に清人が座っていた。僕が家に帰った時清人は出ているようで姿を見なかった。 「おかえりなさい。清人。」 「・・・盟。」 清人は振り返らない。 「清人?」 「私はダメな夫ですね。兄達にも義姉達にも怒られましたよ。私は任されたばかりの仕事にかまけて、貴方の不安にも気づかず貴方を追い込んでしまった。」 清人の言葉に思わず驚く。そんなことない。清人は務めを果たそうとしていただけ。必死に時間を作って会いに来てくれたじゃないか。 「そして白木にうばわれるんじゃないかと恐れている。子どもだと、笑いますか?」 「笑わないよ」 清人の肩に手をかける。そっと、清人はそれに手を重ねた。清人はまだ19歳。日条では18歳で成人とみなされるが、それでも。 「笑ったりしないよ。君は僕の唯一の旦那様だ。僕の方こそ、泣き言ばかりでごめんなさい。」 「盟」 振り向いた清人は僕の唇にキスをくれた。優しく、触れるキス。清人の唇は少しカサついていた。 「2人で、乗り越えていこう。私と、貴方。私は貴方の愛を信じ、貴方は私の愛を信じて。貴方がどんなに悩んでも辛く寂しくても、貴方は私に愛されているのをどうか忘れないで。貴方は決して1人になることはないのです。」 優しい、ことば。 心に染み渡る。 ああ、そうだ。 暗い部屋の、襖はとっくに開いていた。 僕の周りにはたくさんの人で溢れていた。 僕は、孤独じゃない。 涙が、溢れる。それが清人の肩を濡らしていく。それに気がついた清人は僕を優しく抱きしめてくれた。 「愛してますよ、盟」 「うん、僕も」 彼の愛があれば、僕はもう、迷うことはないだろう。また、壁にぶつかることは、あるかもしれない。でも、大丈夫。清人が、いるから。最愛の人がいるから。 「愛してる」 ーーーーーーーーーーー 「あうー!あう!」 「わ、華清、」 久しぶりの我が子は少し大きく、重たくなった気がした。僕の腕の中でにこにこ笑っている。 「やはり、母様の腕の中が好きなんですねぇ。清人様が抱っこされた時はもう泣かれて泣かれて」 女中が笑う。清人は少しムッとした顔をしていて、それがおかしかった。 「華清は、君にそっくりだよ」 「私に?」 顔立ちはもちろんだけれど。 「僕のことが大好きなところ」 そういうと清人は顔を真っ赤にしていた。それがひどく可愛くて。女中がそばで、まぁまぁと笑っていた。 華清、君にもいつか現れるだろうか。 僕が清人にあったように。 唯一無二の存在に、出会うのだろうか。 出会えたらいい。 それは、とても幸福なことだと、母はしっているからね。 終わり [*前へ] [戻る] |