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運命の出会い

「ねえ、荷物持ってよ。俺、マイクより重いもの持てない」
「……」

 当然のように目の前に差し出された買い物袋。服や本が詰め込まれたそれはずっしりと重そうで。少しだけ受け取るのを躊躇した。

 なぜ、せっかくの休日に男二人で買い物に来ているのだろうか。胸の奥底から湧き上がる疑問を必死で押さえつけ、キメラはタツヤの手から渋々と荷物を受け取る。

「買い物くらい一人で来ればいいだろ」
「やだよ。荷物持ちがいないじゃん」

 文句の一つでも言ってやろうと口を開くが、自分の言葉にかぶせるようにすかさず言い返され、そのあまりにも堂々とした態度に自分が間違えているのではないかと錯覚する。

「あ、靴見たい、靴」

 身軽になったのを良いことに、少し離れた場所に靴屋を見つけると、タツヤは軽い足取りで先に進む。
 何を言っても無駄だと悟ったキメラは、対照的に重い足取りで後を追った。

「あれ? ねえ、あの子、マサトくんのお友達じゃない?」
「……せめてメンバーと言ってやれよ」

 靴屋の店先で微動だにせず商品を眺めているのは、よく目立つ赤い髪をした男。タツヤが今特に気に入っている後輩ボーカル、マサトが組むバンドresonanceギターの蘭だった。

「奇遇だね。君も買い物?」
「……ども」

 突然声をかけられ、少し驚いた顔で蘭はタツヤとキメラを視界に入れる。小さく挨拶すると、すぐに目をそらした。人懐こいマサトとは違い、あまり社交性はないようだ。

「女性物の靴なんて見て、彼女にでもプレゼント?」

 蘭の気を知ってか知らずか、タツヤは気にせず会話を続ける。

「いや、まあ…………このハイヒールで踏まれたら、気持ち良さそうだな……って思って」

 突拍子もない答えに、一瞬沈黙が訪れた。

「……踏んであげようか?」
「えっ……じゃあ、はい」
「……お前らちょっと待て」

 閃いたように訊ねるタツヤと戸惑いながらも受け入れる蘭。おかしな雰囲気に思わずキメラはその間に割って入った。

「冗談だよ。俺真性ドMには興味ない。ちょっと頭の弱そうな子を俺好みに調教したい」
「誰もそんなことは聞いてない」
「俺も、どちらかと言えば綺麗なお姉さん……というか女王様が良いです」
「だから聞いてない」

 真顔で語る二人をよそに、キメラは思わず耳を塞ぎたくなった。

「あっ、蘭! やっと見つけた! また一人でいなくなりやがって……って、タツヤさんにキメラさん!?」

 この空気をどうしようかとキメラが内心頭を抱えていると、遠くで聞いたことのある声が響く。その"ちょっと頭の弱そう"な声の主は慌てふためきながら近づいてくる。普段ならば頼りない姿だが、今のキメラには救世主のように見えた。

「ああ、マサトくんも一緒だったんだ」
「は、はいっ。すみません、こいつ無愛想で……なんか失礼なことしませんでした?」

 こいつ、と言いながらマサトは自分より高い位置にある蘭の頭を強引に下げさせる。

「いや別に……ちょっと踏んであげようかっていう話をしてただけだよ」
「は……」

 楽しそうに話すタツヤと蘭を交互に見比べ、しばらく考えていたマサトだが、すぐに真っ赤な顔をして蘭に詰め寄った。

「おま……っ、タツヤさんにまで変なこと言ったんじゃないだろうな! この前も彼女に踏んでくれっつってヒールの高い靴あげて気持ち悪がられてフラれたんだろ!?」

 精一杯声を押し殺しているようだが、その会話はタツヤとキメラにもはっきりと聞こえていた。

「本当にすみません、こいつかなり変なやつで……なんか、タツヤさんにまで気使わせちゃって……」

 心底申し訳なさそうにマサトは頭を下げる。タツヤ自身が切り出した話とは微塵も思っていないようだ。

「ほら、ユウも待ってるんだから行くぞ! タツヤさん、キメラさん、すみませんでしたっ」

 自分が悪者にされ多少不機嫌な顔をしている蘭を引きずるように、マサトは足早にその場を立ち去った。

「メンバー三人で買い物なんて仲良いねー」
「……そうだな」

 何事もなかったかのように見送るタツヤにキメラは相づちを打つ。だがしかし心の中では、先ほどはお互い否定していたが、出会ってはいけない二人が出会ってしまったのではないかという一抹の不安を抱いていた。



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ちなみにプライベートではタッちゃんはキメラくんのこと本名の翔也って呼ぶ(どうでもいい情報)


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あきゅろす。
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