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ぼくのおとうさん

「米、いる?」

 丙はスタジオの扉を開けるなり、くつろぐメンバー達に向かって唐突に言った。どこから持ってきたのか、小さな台車に大きなダンボール箱を幾つも乗せて。

「実家から送られてきたんやけど……いくら何でもこの量はな。食べきれへん以前に家に置く場所があらへん」

 溜め息を吐きながら、丙が一番上の箱を開けてみせると、中には白く輝く新米がぎっしりと詰まっていた。

「さっすが農家の息子! じゃあ遠慮なくもらってく」

 真っ先にキィスが立ち上がると、他のメンバー達もそれに続き、箱の周りに集まり始めた。

「いつも悪いなあ。それにしても本当羨ましいよ。うちなんて両親とも公務員だから送ってもらえる物なんて何もなくて」

 丙からお裾分けを貰うのはこれが初めてではない。定期的に実家から送られてくるという農作物をいつも貰っている櫻は、心底羨ましそうに嘆いた。

「っていうか櫻って公務員の息子なんだ。それっぽいね」
「なんだよタッちゃん、棘のある言い方だな」

 だからこそこんな真面目すぎる人間に育ったのかと、タツヤは含み笑いを浮かべながら櫻を見る。対照的に櫻は面白くなさそうに頬を膨らませた。

「そういえば丙とキィスは幼馴染みだったな。キィスの実家は?」

 米を物色しながら、ふと思い出したようにキメラが問う。

「んー、うちは銀行マンだから。櫻と同じで送ってもらえるような物ないんだよね」
「……計算高いのは遺伝か?」

 キィスの返答に、キメラは思わず呟いた。小声だったせいか、幸い既に櫻との会話に夢中になっているキィスには聞こえてはいないようだ。

「キメラくんちの親父さんは何してる人なん?」

 皆に米を分け与えていた丙が口を開く。

「うちは……トラックの運転手」
「おおっ! かっこええなー」
「母親が……」
「母ちゃん! めっちゃかっこええ!!」

 淡々と答えるキメラとは対照的に、丙は大げさなリアクションを取りながらわざとらしく叫んだ。

「タッちゃんちは?」

 一足先に自分用の米を確保したキィスが椅子に座ったままのタツヤに聞く。

「小さな病院の医院長」

 さらりと答えたタツヤの言葉に、一瞬空気が固まった。

「……マジで? 医者!? 超セレブやん」
「タッちゃんバンドなんてやってる暇ないんじゃないか!?」
「そうだよ、せっかくのエリートコースなのにっ!」

 一瞬の静寂を打ち破るように、皆タツヤに詰め寄り責め立てた。

「お前ら……」

 一人動じずその様子を見ていたキメラが口を開く。呆れたようにタツヤと詰め寄る三人を交互に見ながらため息を一つ吐き、口を開いた。

「あ……そうだよな。人にはそれぞれ事情ってものが……」

 我に返った櫻が決まり悪そうにタツヤを見る。当の本人は平然とした顔をしていたが、タツヤをよく知るキメラの様子から、あまり触れてはいけないことのような気がして反省の色を見せた。

「違う」

 しかし、キメラから返ってきた言葉は予想とは違った。

「お前ら、タツヤにメスなんて持たせて良いと思ってるのか?」
「…………」

 今度はキメラの言葉に空気が固まった。固まりかけた思考回路の中、皆同じ答えに辿り着く。

「ダメダメ、絶対ダメ! タッちゃんにメスなんて持たせたら確実に医療ミスを犯す! しかもわざと!」
「人体実験とか言いながら泣き叫ぶ実験体をえげつない笑顔で切り裂く姿が目に浮かぶわ!」
「タッちゃん! タッちゃんはいつまでも俺達【REQUIEM】のカリスマボーカリストでいてくれ!」

 思いのたけをそれぞれが叫びながら、懇願するようにタツヤにすがりつく。
「……ねえ、これ、褒められてるの?」

 その様子を眺め、タツヤはこれ、と言って跪く三人を指差しながらキメラに問う。

「……そういうことにしとけ」

 一呼吸おいた後、キメラはタツヤと目線も合わせず、懐から取り出した煙草に火を着けると、長い長い溜め息と共に煙を吐き出して小さく呟いた。


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キメラくんは母子家庭っぽい。(今決めた←)

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