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自業自得
「いい加減にしろよ!」

 舞台裏、いつもと変わらぬリハーサルの最中に、いつもとは違う怒声が響き渡った。

「うるっさいな。そんな大声出さなくても聞こえるよ」

 面白くなさそうにぼやくタツヤと、声の主、普段の穏やかさからは想像もつかないような剣幕の櫻が睨み合っていた。

「ちょ、ちょお二人共落ち着きや」
「大人気ないよ〜」
「櫻らしくないんじゃないか?」

 いくら仲の良いバンドと言えどぶつかることがないわけではない。つまらない些細なことから発展する衝突も珍しくはなかった。櫻とタツヤの間で狼狽するメンバー達の姿も見えていないようで、消えることのない火花を散らし続けていた。

「だいたい、我儘すぎるんだよタッちゃんは」
「自由に生きてると言ってほしいね」
「今日こそはもう我慢の限界だ」
「じゃあ消えれば? 櫻の下手くそなギターの代わりなんていくらでもいるし」
「な……っ」

 全く反省の色のないタツヤ。喧嘩にも飽きてきたのか、視線すら合わさずに足で壁や機材を蹴りながらイライラした口調で答えていた。

「タッちゃん! 言って良いことと悪いことの区別くらいつけとき!」
「……いい加減大人になれ」
「も〜! タッちゃんが謝れば済むんだからさあ」

 口々に攻め立てられ、更に面白くなさそうに大袈裟にわざとらしく溜め息をついた。

「ハイハイ。どうせ俺は悪者ですよ。でもさ、俺がいなくなったらこのバンド終わりだよね〜」
「タツヤ! お前本当に……」
「あー! だからうるさいって!!」

 怒りが頂点に達したのか、腕を掴むキメラの手を振り払って更に強く側にあった機材を蹴り飛ばして出て行こうとした。

「タッちゃん危ない!」
「え?」

 思いもよらなかった叫びに、タツヤは思わず振り返る。その瞬間、先程の一撃でバランスを崩したのか、機材の山が頭上目掛けて落下してきた。

「いったあ……」

 なんとか下敷きになるのは免れたが、額に激突した機材を憎々しげに見ながら患部を擦った。

「あ……?」

 その手にべっとりとこびりついた赤黒い液体を見、タツヤは動きを止めた。

「わー! タッちゃん死んだー!?」
「お、落ち着け、気絶してるだけや!」
「だ、大丈夫だよ! 出血はあるけど傷は浅いみたい」
「ああ……」

 慌てふためくメンバーをよそに、キメラだけは冷静に呟いた。

「タツヤさ……自分の血、駄目なんだよ」

 その言葉に傷口を看ていたキィスが手を止めた。

「マジ? あのドSのタッちゃんが? 人を傷付けることでしか喜びを感じないこの異常者が?」
「なんや、てっきり俺は苛める対象がおらんかったら自分自身を傷付けるタイプの人種やと思ってたのに」
「酷い偏見だな」

 意識がないのを良いことに暴言を並べるキィスと丙に苦笑しながら言うキメラ。

「でもまあ……日頃の行いが悪いタッちゃんが悪いよね」
「そやな〜、自業自得やん」
「傷もそんなに大したことないみたいだし」
「舐めときゃ治るやろ」
「……お前ら時々結構冷たいよな」

 好き勝手並べる二人を見ながら、呆れながらキメラは呟いた。

「タッちゃんしっかりしろ! 早く救急車!」
「お前はどこまで良い奴なんだ櫻……」

 そして喧嘩の原因などすっかり忘れてしまった様子の櫻に向けられた言葉は哀れみを含んでいた。



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タッちゃん最悪★
でもこの後普通にライブしました。(結局は皆仲良し!)



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あきゅろす。
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