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 『baron』はまだ若いチームだ。正平を中心として、瞬く間に勢力を伸ばしだして数年。ムチャな抗争は当たり前で、何度も自分達より大きなチームを潰してきた、らしい。
 情報としてなら、嵩斗も知っている。
 今まで潰されたチームは大半がbaronに吸収されてきたらしいが、中には空中分解したり、勢力を弱めてひっそりと潜伏したチームがあったのは当然で、今回、『北猟』の猟地の呼びかけにその多くが賛同したという事だった。

 ぶっちゃけ嵩斗はその辺の経緯に興味がまったく無いのだが、なぜそこから今回の大量襲撃に繋がったのかは気になる。大事な戦力だろうに、こんな時に数を減らすなど何を考えているのか。

「普通、それだけ頭数揃えて負けるとは考えないんじゃないかな」

 正直、今にも負けそうだったので何とも言いづらい。

「嵩斗が強いって事は『baron』の中じゃ共通認識みたいだね。部活の先輩方が言ってた。で、どっかからその話を聞いた『北猟』関係の連中が、相手の動揺を誘うために嵩斗を狙った……とかかな? さらって人質に出来ればめっけもん、みたいな」

「バカの考えそうな事だな……」

「いやいや、ここまで強いとか普通思わないし……したら、まあアリな作戦なのかもしれないよ」

「はた迷惑な作戦には変わりない」

 それは同意、とマサシも頷き、そんでさ、と嵩斗の顔を覗き込んだ。

「大澄の事は気になんない?」

「ん。お前、かなり意地悪いな」

 気にならないはずがない。だがもう奴らにとっては関係ない事だろう。
 昨日の事は今までのツケといっていい。過剰に撃退してきた事への、報復の意味も含まれていると思う。それが今後も続くかは分からないが気をつければ済む話だ。とにかくもう『baron』の連中に頼る気は無いので、こういった事態が無い事を願いたい。

 その嵩斗の考えを後押しする様に、『baron』からの接触はこの事態に至っても、いっさい無いのだった。



****



「おいこら! 修吉、待ちなさい!」

「どけよ!」

「なんだ、その荷物は。こんな時間から、どこに行くつもりだ!?」

「っるせぇ! ほっとけよ!」

「この、馬鹿者がぁ!!!」

 バガン! と何か堅い物が潰れる破壊音が、嵩斗の自室にまで響いた。

 こんな時間といってもまだ夜の7時を回った所である。もう直ぐ夕食という時間だ。ただ菊原家のサイクルでは、確かに大きな荷物を持って外出する時刻では無い。
 ここの所、父と弟の口論を聞く日が増えた。というのも修吉は、只今絶賛反抗期らしい。夕方から出掛けて夜中に帰ってきたり、ついに夢の無断外泊を行ったりしたようだ。
 うらやましい話だ。
 連日、父を振り切る事に成功していたようだが……今日はついにキレた父に捕まったらしい。きっと道場という名の地獄へ連行されて、過日の嵩斗など比べ物にならないほどのキツい折檻を受けるだろう。
 正直、あの父に反抗する修吉の気概は賞賛に値すると思う。嵩斗には真似できない事だ。

 バターンドターン! ォォリャアァァア! アマいわフハハハハ! ドカーン!

 とかなんとか聞こえる過酷な効果音を背中に聴きながら、ハンバーグに肉野菜炒めという肉肉しい夕食をすませれば、良い汗をかいた父親がリビングに現れた。

「あれ、母さんは?」

「親父の代わりにジムにあがってるよ」

「え? あ、あ゛!? あっちゃー、夢中だった……しまったな」

 まずい、と頭を押さえる父を横目に、自分が食べた分の皿を片付ける。ざっと水で流した後、食洗機につっこむ。

「すぐ戻るんじゃない? 今日は須永さん来てるし」

 しっかり者のインストラクターの名前を出せばほっとした顔になったが、直ぐに部屋を出て行こうとする。

「須永くんが居るなら安心……じゃない! あいつ、母さんに色目使いやがるからな! ちょっと行ってくる!」

「いってらっしゃい。あ! 待って修は!?」

「寝てるー!」

 それは気絶の間違いじゃないだろうか。
 男としては放っておいてほしいところだろうが、兄としてはやはり気になるので、とにかく様子を見に行くことにした。


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