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何を言われたのか分からない。
という顔を二人共していた。
「い、いやか、うちの溜まり場はいやか」
「んー、溜まり場はっていうか」
「フッ二人でデー……おっ……遊ぶの、いやか」
とっさにまた頷いたが、間違った答えではない。
二人、溜まり場、デート!? 無理だ。
とてもそんな気分になれない、という以前に、週末の約束なんてできる状況じゃない。明日正平を問い詰めるつもりだ。これ以上先延ばしには嵩斗の精神衛生上出来ない。
明日の答え次第で。
俺は、───
雲の流れが停まった気がする。
音が遠い。
息苦しい。息苦しい。息苦しい。
舌の根まで渇いたようだ。
白くなる視界。
あぁ、そうだ───
「きくはら、こんな事聞きたくないが、確認させてくれ。俺のこと嫌いになったか?!」
「好きとか嫌いとかの話は、置いといて」
「ぇえ!!?」
「もう送り迎えすんのしなくていいから。狙われるとか最近無いし、来てもどうとでもなるしな」
「なー!!!」
奇声と同時に正平は嵩斗に飛びかかった。避けようとしたが失敗して胸に閉じ込められる。嵩斗は、いつにない抵抗を見せた。
「やっぱり! おい嘘だろ!? 嫌いになった!?」
「大澄っ」
「頼む!! 頼むから、誤魔化すな! んな遠回しにすんな! はっきり言ってくれよ!」
息をのんだ。嵩斗の覚悟を秘めた言葉は、正確に正平に伝わっていた。
「もう待ってても意味がないなら、ちゃんと、そう言ってくれっ……!」
「…………」
違う。
好きだよ。
「意味がないのは、こっちの方、なんじゃないか……? 昨日、駅でお前の事見たんだ。お前が今何を思っているのか、俺にはもう分かんないよ」
「なに、言ってるんだ? 好きに決まっ」
「言うな! 今は信じられない! ………………大澄、見たって、言っただろ」
一言一言に含ませて言う。抱き込まれた頭上で、小さく声が漏れた。拘束が緩む。
抜け出してみれば正平は茫然と固まっていた。その顔が示す事は一つしかないのだろう。
「間違いじゃあないんだな」
何を言ってるんだと一蹴してほしい。無理ならせめて、言い訳を。
好きだけれど、それを裏切るようなまねを許せるほど広量じゃない。待っていても正平は何も言わない。これではもう、納得するしかない。
ふと、息が漏れる。
口元は笑いの形になり損ねて不格好に歪んだ。
「バカにすんな」
さらに正平は目を見開かせて、大きく口を動かした。だが言葉は出てこないらしい。
もういい、と嵩斗は正平に背を向けて、屋上を後にした。
****
帰り道を一人で歩くのも久しぶりだ。
大きく伸びをしても、大して気が晴れないのは当然の当たり前。誤魔化すように鞄の中にある定期券を取り出して、感触を確認した。これからは毎日ちゃんと使えるのだろう。
「菊原さん!」
曲がり角から飛び出してきた朝日奈くんに危うくぶつかりかけた。すみませんすみませんと何度も謝って、腰を低くしながらもさり気なく道端へ誘導される。
「ちょ、何? もう送迎は無しになったと思うんだけど」
「マジっすか!? 聞いてましたけど、信じらんないですって! マジの事なんすか!?」
何でですかそんなの危ないですよ! と朝日奈くんは食らいついた。
「本当、だ。別に絡まれても問題ないし…………今まで世話んなった」
「えええ待ってっす。お二人うまく行ってたじゃないすか! 何でいきなり」
動揺してまくし立てるのを困った顔でただ見詰めた。 正平がどんな顔で何を思って、仲間たちにそれを話したのかも、昨日見た事にどんな裏があるのかも知らない。決定的な溝が二人の間に出来たのは確かだった。
「…………ごめんな」
何に対しての謝罪なのかは嵩斗自身分からなかった。
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