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 廊下へ出れば金丸はこちらの姿を確認するなり動き出してしまい、ため息を付いて後を追いかけた。
 視界の先に、チャイムが鳴って教室から出てくる生徒の姿が見えた。彼らは金丸の存在を認めた瞬間教室へ回れ右をしたり、壁に張り付いたりするものだから、廊下は瞬く間に微妙な花道状態になる。柄が悪そうな厳ついヤンチャ坊主でも道を空けるのだからとんでもない。

「てめぇ、いやっそうな顔すんじゃねぇよ。隣にんなシケた面した奴連れて歩きたくねーし。……つかお前を後ろに乗せんのか……マジうぜぇ……」

 後ろに、とはもちろんバイクの後ろだ。電車通学の嵩斗を送るのに、金欠者続出の彼らは一緒に電車に乗ることを諦めたらしい。なので現在、嵩斗を送る要員はバイク所有者に限られている。
 ち、ち、ち、とオヤジ臭く立て続けに舌打ちして見せた金丸の言葉に、嵩斗は(だったらこんな役請け負わなければ良かったのに)と頭の中で文句を並べたが、只でさえ苛立っている不良を刺激してはいけないと声には出さず、だが堪えきれずに様々な不満を乗せた目線で訴えた。

「なんだよ……俺の後ろはそんな不満かよ」

 そりゃあ大澄の後ろがいいだろうがよ、と言葉が続いた。視線の意図とは違うが、確かに密着するなら正平がいい。だがまず大前提から間違っていると思うのだ。困っているのはもっと前の段階からなのだ。

「そもそも俺は送ってもらう必要なんかねーんだけど」

 なにしろ、これだけ絡まれてまだ無傷なのだから。

「……どーだかな」

 しらけきった目線に訝しむ。武勇伝とまでは言わないが、どんな状況か話くらいは聞いていないのかと。

「大澄の奴から、珍しく指示があってよぉ。お前を守るってのが今チームの最優先事項なんだ。俺が止めたって他の奴が直ぐに名乗りあげる。…………野郎ども今すげぇはしゃいでるから。当分は収まんねぇから、諦めろ」

 当分っていつまでだ。
 再び落ちる重い溜め息に、金丸もそれに倣った。

 バイクの後ろに乗るのはもう慣れた物だった。ヘルメットを被って腰を落ち着ける。

「んじゃまあ、よろ」

 ブォン!

 しく、と言わせては貰えなかった。

「ちょっ……あぶ、あぶないって!」

 慌ててしがみつけば嫌がらせのようにスピードが上がる。無茶な割り込みや交通ルールを無視したような走りに目眩がするようだ。

 嵩斗はこの時まで、知らなかったのである。

 バイクの後ろに乗ったのは正平の後ろが初めてだった。以降正平以外の後ろにも乗ったが、みんな彼の仲間……忠実な手下達だった。彼らがどれほど嵩斗を大切に扱っていたのか、この日初めて思い知らされた。
 つまり正平を始め、皆とっても安全運転だったのである。

 己の力ではどうにもならない理不尽なスピードに、嵩斗は珍しく、すっかり怖じ気づいた。

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あきゅろす。
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