70 正平は正面からぶつかってきていたというのに、そっちのけで独り相撲をしていたのである。改めて思うと本当に恥ずかしい。 「なんつうか、お前は『おつきあいって事をスゴく難しく考えてるんだな」 本当にそうだ。今時の同世代はきっともっと簡単に考えているに違いない。 「なぁ……いっその事さ、今の状態を全部本人に言ってみちゃえば?」 「そんな怖いこと出来るか」 「怖い?うーん……そりゃ怖いよなぁ。好きなんて言っちゃったら、何されるか分かんないもんなぁ」 いやそちらの『怖い』ではなくて、精神的な部分で、なのだが。確かにそちらも大いに怖いと気付いた。 「先に進みたくないけど、関係を切るのもいや、なんだろ?」 気持ちがはっきりしてしまった上、しかも両思いなのも明白。これで縁を切っていいのかと聞かれれば、いいはずがない。 ゆっくりと嵩斗は頷く。 しかし、先に進む……付き合いたくないなどと言うのは。 「そんなわがまま、てか勝手なこと、普通まかり通るはず無いじゃん」 全くその通りで、正平もだいぶ煮詰まってきているのだろう事は想像に難くない。 嵩斗は、こちらのカードを一切見せずに、都合のいいように事を進められるほど器用ではない。こちらのカードとは?自身の進退窮まった状態を白状すること以外浮かんでこない程度には、不器用だ。 「俺、言うのか」 「俺なら言わないけど」 「おい」 「お前とあの大澄正平なら、それでいいんじゃないか?」 「………………でも言って、どうするんだ」 「そりゃお前が考えろよ。お前の大事な事だろ?」 「ん……んー」 正直、色々暴露したり気持ちに向き合ったりして、いっぱいいっぱいだ。これ以上物を考えてもまともに浮かびそうにない。 「お前しっかりしろよー。……あぁじゃあ、俺の意見ね?俺としては、今回また答えを先延ばしにして、嵩斗が大澄と付き合う勇気を持つまで待ってもらえばいいと思うんだけど」 「それは……」 いい、と思うが。 色々と言いたい。 まず話が、後々に付き合いたいと嵩斗が思っている前提になっている。あと勇気を持つまでとか言われると本当に女々しくって納得し辛い事。そのまま本当の事を本人に言ったら、それこそ押し倒されて待つもくそもなくなりそうだと思う事。色々とあるが。 ……あるが、それでも、マサシのその言葉は嵩斗の心の中にすとんと収まった。 俺は、大澄正平と付き合いたいんだ。 ……ゆくゆくは。 [*前へ][次へ#] [戻る] |