64 朝の道は通勤や通学の為、駅へ向かう人で溢れていた。時折知り合いに会って、挨拶をしながら嵩斗も駅へ向かう。駅前にもなると住宅街の最寄り駅と言うだけあって更に人が増えた。 ふと視界の端に同じ制服の生徒の姿。背が高い。黒い短髪。 まさか、と思って二度見すると全く知らない顔で、ホッとしたような期待してしまったような複雑な気分になった。 今朝の修吉の言葉のせいだ。 『だから、好きなら好きでいいんじゃない』 頭に浮かんだ言葉に、恥ずかしさで顔を覆って俯いた。突然の行動に気分でも悪いのか?と横目に見られるが、嵩斗にそんな事を気にする余裕はない。 なにがいいんじゃない、だ。 だが言われた瞬間、確かに。 胸が脈打った。 「……くそっ」 ぼやきながら歩いていると、普段とは少々おもむきの異なる駅前の様子に気付き、足を止める事になった。 もう、駅まで数十メートルという所まで近付いている。それまでずっと気付かなかったなんて、己はなんて間抜けなんだ、とほぞを噛む。 駅前には不自然な人の空白地帯があった。 その中心には朝に不似合いな、朝から見てしまうなんて今日はきっとアンラッキーデイだと確信してしまうような、集団がいる。 気のせいではなく、見覚えのある不良が何人も、いる。 バイクが四台。人が、ひのふの……六人。バイクと人の数が合っていないのは、端から二ケツを予定しているからか。 朝からそんな、制服で迷惑行為をしてしまったら、また学校に苦情がいくぞ……なんて現実逃避をしてしまう。 「菊原!!おはよう!!!!」 おはようじゃねぇよ。 足を止めた為まだ距離があったせいか、嵩斗の存在に気が付いた不良=正平がいつもより更に割り増しな音量で挨拶をすれば、それに倣って周囲の不良も揃って挨拶をする。みな、腰を九十度曲げる勢いだ。 こんな状況で名前を呼ぶな! 他人の振りなど絶対にできない状態に陥り、せめて声を落とせ、と慌てて駆け寄った。 片手は肩、もう一方は胸ぐらをつかんで、勢いよく屈ませる。 「なにやってんだっ」 「迎えに来た!」 嵩斗は硬直した。たたらを踏んだ正平だったがすぐに体制を整え、あの嵩斗が苦手とする低い声で、ひたりと目を見据えて、そう言い切ったからだ。 ああしまった。顔が近い。 瞬時に、顔に熱が集まった事を自覚した。 かすかな汗の匂いを感じる。この距離だと鼻毛まで見える。正平の心拍数が分かる。小動物のように速い。己の心音も、伝わっているのだろうか。 「た、頼んでねぇし!」 「ああ、頼まれてない。俺が一緒に行きたいんだ!あの日以来、会うのも見るのも我慢してただろう。俺はもう我慢できない!!」 あの日とはラーメン屋に行った日の事か。確かにそれ以来会っていなかった。学校でも外でも。だがそれはほんの数日の事、もう無理とか言う時間なのか!? 「菊原!一緒に学校へいくぞ!!」 正平は言うや、胸ぐらを掴まれるという近距離にいるのをいい事に、背中に腕を回してぐいと引き寄せようとした。 瞬間、嵩斗の頭には再びあの言葉が浮かび上がる。 『好きなら好きでいいんじゃないか』 「〜〜っっ!!」 よくねぇぇぇぇぇ!!!! _ [*前へ][次へ#] [戻る] |