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「……そ、か…………気付かれてたのか」

「ごめん」

「……修が謝んのは、おかしいだろ。むしろ俺が」

変な兄貴で悪いな。
言えば困ったように修吉は笑って、いいやと首を振った。

朝日が差し込む室内。開かれた窓からは冷たい朝の風が吹き込む。外を走る車の音が聞こえ、近所の犬がヒステリックに鳴き続けている。いつもの朝の空気だ。
それに少し、嵩斗は安心する。

「じゃ、とりあえず」

修吉が拳を軽く突き出せば、嵩斗もそれに頷く。
改めて真剣に向き合って始まるのは慣例のジャンケンだ。
くそ、と呻いたのは嵩斗で、突き出したグーの手で修吉はニヤリと口を歪ませた。

「さっさと入ってこい」

そして早く代わりなさい、と追い払えば足取り軽く修吉は退散しようとする。
だがその足が止まって、そういえばさ、と切り出す。

「俺前に同級生に告白されてさぁ」

「は」

「俺は駒子一筋だからフったけど」

正確に言うと一筋に片思いだからフったけど。

「そんとき同性で恋愛も有りなんだなーって知った」

なんの話だ。同級生、同性って、つまり男に告白されたのか。モテるのか弟は。まあ背が高くて顔も悪くないしなぁ……自分と全く似ていない外見が色々羨ましいぞ。いやモテたのは、男にだから、コイツにとっては嬉しくないか。……いいなぁ……いやいやいや何でもないそれよりこいつの周りは春めいた話が多いな。今時の中学生はスゴいな。

「で、嵩にぃ」

「ん」

「大澄正平の件だけど……不良と関わらないなんて約束、チビのガキだったからしてただけでさ、もう無効でいいんじゃないって思う。今ならもうそこまでガキじゃないし、自分で判断できんだから」

一理ある、と頷いた。
だから、と修吉は一拍開ける。

「好きなら好きでいいんじゃない」

好きなら好きでって。
誰が誰を。

「……はぁぁ!?おま、修!」

バカを言うな!
跳ね上がった眉尻に兄の結構な怒りを感じ取って、修吉は即座に走り出した。さすがに追いかけるような真似はしないが。
……しないが!

それではまるで、正平の事を好きみたいじゃないか!

「んな、バカな……」

道場に取り残されて、力なく呟く。

そう見えたのか、弟よ。

捕まえて問い詰めたいが聞きたくないようにも思う。
とにかく弟との話は心臓に悪い展開ばかりだと、ドキドキとする胸を撫でた。

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あきゅろす。
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