短編集
のんびり屋【TOE】
穏やかに流れる時間の中で。
のんびり屋
天気がよくて、こんな感じに穏やかな日はまったりとしたくなる。
この陽気は、いつも以上にそんな気分になるのだ。
特にこんな人たちは――
「いい天気だねぇ、リッド」
「そうだな」
ラシュアンの、辺り一体を見渡すことのできるこの見晴らし台。
そこはリッドとカナのお気に入りの場所(ようするによくこの場所で仕事をサボっているのだ)
こうやって、彼らはここにやってきてはここから空を眺めている。毎日変わらぬ風景をこうやって見つめている。
ここから見える風景――どこが面白いのか、と問われればそれに答えはないけれど。答えなんてないが、互いにこの風景やこの感じを気に入っているのだ。
「リッドは今日どうだったの?」
「オレは食うものを食うだけ捕ってるからなぁ……いつもと変わんねぇよ」
「そっかぁ」
「カナのほうはどうなんだよ?」
「うーん、私もいつもと変わんないかなぁ」
お互い思い思いの場所を眺めながら言葉を口にする。
毎日、同じように穏やかな日々が流れてゆく。
彼らはこの穏やかで緩やかなラシュアンの時間の流れが好きだ。
「やっぱりこの流れはいいねぇ」
「だなぁ……ファラに言ったら違う言葉が返ってくるだろうけど」
「言えてるや……」
二人はこのラシュアンの村にいるもう一人の幼なじみを思い出し彼女ならどんな風に返してくるかを予想した。
どう考えてみても、100%の確率で自分たちと同じ答えが返ってこない。が彼らの結論。
「……あ、あそこに噂のファラが」
「げっ……」
空から視線を外し、地上を見てみれば、先ほど話題にあがったファラの姿が見えた。
向こうも向こうで2人の姿を発見したのか、「あっ」という表情とともに2人に向かって手を振り始めた。カナはそれに答えるようにブンブンと手を振るのだが、リッドはそうではなく、ぼそりと「また言われるんだろうなぁ」なんて呟いていた。
「やっぱりここにいた!……サボっちゃダメだよー、リッドー・カナー!」
遥か上(にいるように感じる)リッドとカナに聞こえるようにファラは叫ぶ。その声は怒っているように聞こえ、ちょっぴり顔色は怒っているように見えた。
「やっぱりそれか……」
毎日、毎回そう言われているような気がして苦笑する。アイツはあの言葉以外に第一声はないものなのか――と。
「ファラったら失礼だなぁー……
サボってなんかないよー」
ちゃんとやることをやってきたんだからサボったわけじゃない、とファラに言った。そして「だよね、リッド」と彼に同意を求める。リッドはそんなカナの言葉に「本当だ」と頷きながら同意した。
「ファラも上がってこいよ」
「そうだよ!おいでよ、ファラ!」
柵から少しだけ身を乗り出し、彼女に手招きをする。
カナのその動作を見て、ファラは梯子へと手を伸ばす。
のんびりと時間が進むラシュアンの村。
その村の中でも特にこの、見晴らし台は時間の進みが穏やかだったり。
この日は珍しく、ファラも加わりリッドとカナの3人で変わらぬ空と変わらぬ風景を眺めていた。
.
(これにキールがいたら楽しいだろうね)
(キールかぁ…なんだか懐かしいなぁ)
(キール…ってあの泣き虫キールのことか?)
(うん、まだ泣き虫なのかなぁ)
(まさかぁー、もう泣き虫じゃないよ…きっと)
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