静かに生きたいんです。 2 今日は厄日か……? 俺は秀と二人で普通に帰宅しているところだったのに。 放課後、秀に話しかけられたんだ。 秀と俺はクラスが隣同士。 クラスで人気者の彼は、いつも大勢のクラスメイトと帰路を共にする。 だから彼が放課後、俺のもとにやってきて、 「玲、一緒に帰ろうぜ!」 なんて誘ってくるのは珍しかった。 どちらかといえば一人で居るのが好きな俺は、一人で帰宅することが多かった。 毎日一人で帰っていると、たまにはこの幼馴染と共に帰るのも悪くないと思ってしまうものなんだ。 ちょっと誘われたことが嬉しくて、それを隠すためにそっけなく意地悪なことを尋ねた。 「その他大勢はどうしたんだ?」 それを聞くと秀は控えめに笑った。 「その他大勢って……。まあ、玲らしいといえば玲らしいけど。今日はなんとなく玲と帰りたくなったから、用事があるって言って、先に帰ってもらったよ」 「……そうか」 実を言うと、俺と二人で帰るのは、他の人には秘密だったりする。 まあ、普通にバレるから、公然の秘密というべきか。 それをする理由は一つ。 秀は顔が“無駄に”整っているから、俺が秀のファンに睨まれてしまうからだ。 秀は明るくて優しい奴で人気者だから、『皆の秀君』らしい。 俺は確かに明るい性格というわけではないし、秀みたいに綺麗に笑えないが、秀と幼馴染である俺まで睨まないでほしい。 幼稚園から高校一年生の夏の今に至るまで、ずっと隣家に住むこの幼馴染と学を共にしていたんだ。 少しくらい、許してくれ。 前に一度、 「俺も含めた、ファン達皆で帰ったら、万事解決じゃね?」 と、提案したことがある。 その時は恐ろしく真剣な声で言われたんだ。 「僕は玲と帰りたいんだ。玲がどうしてもって言うならほかの人も誘うけど」 その時俺は悟ったんだ。 秀が一緒に帰りたいと言うときは、彼が甘えたいときなのだと。 だからその時だけは、ファン達にはそばに居てほしくないのだと思う。 『人気者の秀君』で居なくてはならないから。 俺が秀のファンに睨まれながらも、彼の誘いに乗るのは、彼の弱さを知っているからだ。 ……今回ばかりは、彼の誘いに乗ったことを後悔したけど。 懐かしき思い出 [戻る] |