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小説(近親相姦)

おそらく俺が中学に上がった頃からだろう。
日向が家族に対してのみ心を開き、外で出会う全ての人に対して怯え、壁を作り始めたのは。

初めに言っておくが、この原因は幼い独占欲から俺が悪知恵を働かせ、日向に何か吹き込んだ、という訳では断じてない。
ただし、全く関係していないというと嘘になるが…。



日向を見ていると、容姿の整った者が必ずしも人気者になるわけではないという事がよく分かる。
引っ込み思案で人見知りの激しい性格の為、自分から人の輪に入って行くわけではない。
それでも、常に口元には笑みを浮かべているし、自己主張をしないだけで協調性はある。決して嫌われるタイプではない。
では、なぜ日向が他人と距離を取り始めたのか。
それは、いくつもの要因が重なっていた。


俺と日向が通っていた小学生で、比較的身長の高かった俺はどうやら目立っていたらしい。
卒業し、中学のブレザーに身を包むようになってからは尚更だった。
高学年から始めた居合いは中学校の部活にはなかったため、剣道を始めた。
父親の遺伝か身体も顔付きも大人へと成長しており、この頃には身長も170中盤に差し掛かっていた。
下校途中では他校の生徒や高校生のお姉さま方に告白される事がちらほらとあった。
休日に私服で街に出ている時はさらに頻繁で、中学生から明らかに30代前後といった大人の女性からも声を掛けられた。

どうやら自分の容姿は女性にとって魅力的に映るらしいと気付いたのもこの時からだった。

そんな俺は母校の小学校でも卒業しても話題に上がっていたようで、日向の同級生の女子は日向の前で
「春真さんってホンット格好良いよね!
冨永君と仲良くしたら春真さんとお近づきになれるかな」だとか、
「兄弟なのが怪しいくらい似てないよね。
日向君貰われっ子なんじゃない」などと繊細な日向を傷付けるようなことを頻繁に言っていたらしい。
男の子たちも似たようなもので
「お前、女みたいな顔してちんこ付いてんのかよ。
オカマだろ、オカマ〜」と小馬鹿ににしていたようだ。

俺にとって幸いなことに、同年代の子供たちにとって、日向が可愛い事は分かるが、女の子からすると恋愛対象には映らず、男の子からすれば、日向を可愛いと思ってしまえば変な目で見られるのでは。と過剰に意識してしまい結局揶うことで接点を持つ事を選ぶ子がほとんどのようだった。
そんな状況でも、困ったように静かに笑うだけで、日向はいつも受け流していた。



日向に決定的な傷を作ったのはうだる暑さが続いた7月の終わりだった。
ほんの半年前までは毎日2人で登下校をしていたのだが、俺が卒業してからは1人で小学校までの道のりを行き来していた。
同年代の子供たちからすれば何ともなかった日向の容姿は、大人にとってはそうではなかった。
学校指定の夏服は、黒の短パンに白い半そでのTシャツだった。
白く伸びた手足は惜し気もなく晒され、白地の生地の下にある胸の頂も、汗ばんだ肌に張り付き薄っすらと透けていた。
美少年が無防備にも1人で歩いているのである。
逆に春からの数か月間無事だった事が奇跡に思われるが、日向は大学生の変態に連れ去られそうになった。

日向を溺愛している上の兄と同年代くらいと見て安心したのか、何の疑問も持たずに着いて行ってしまった日向は、近くの公園のトイレで男に悪戯をされた。

男が日向に襲い掛かり、竦み上がっている性器に触れているところを通りかかった近所のお爺さんが発見し、警察に通報したため、大事には至らなかったが、日向はショックで暫く部屋から出られない程だった。

俺の可愛い日向に悪さをした大学生はこの世から抹殺したい程憎いが、それ以上に憎いのは周りの大人の反応だった。

腫物を扱うような対応だけならまだ良い。
仕事の付き合いだというのに、パーティだのお食事会だのと家を空けがちな母親が派手に見えていたのだろう。かねてからの鬱憤を晴らすかのように、母親がしっかりしていないから子供があんな目に会うのよ。などと、聞えよがしに母を批判していたのだ。

母は元から口さがない人たちの中傷などものともせず、全く気にした風ではなかったが、日向はそうではなかった。
自分がしっかりしていなかったが為に、あんな目に会い、果てには自分のせいで母親が悪く言われてしまったと、全て自分を悪く思ってしまったのだ。

日向は悪くないのに…。


それからの日向は徐々に人との距離を取るようになった。

ひなは悪い子
ひなを可愛い、好きだと言ってくれる人にはきっと裏がある
何か問題が起きたら、またママたちが悪く言われる

きっと、そう思ったに違いない。
優れた容姿を持っているのに、全く自分に自信を持てず、剰え、その容姿を憎みさえしてしまった。
それでも、家族の前でだけは心配させまいとしているのか笑顔を絶やさず、だけど迷惑を掛けないようにしているのはありありと感じれた。
あんな事件のせいで日向が負い目を感じて生きていくなんて馬鹿らしい。
俺たち家族はそう思い、如何に自分たちが日向を愛しているのか、日向は悪くない、いい子だよと伝え続けた。
その甲斐あって、日向は家族の前ではあの痛々しい笑顔ではなく、心からの笑顔を向けてくれるようになった。

それでも、外に出れば他人と一線を引いてどこか怯えたように接していたが、俺はそこに至っては特に何も言わなかった。むしろ、良い事だとさえ思ったほどだ。

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