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お届けに参ります


「変…なんですよ、貴方の証言は」


どんどん顔が青ざめていく波木さん。
口を開けて目を見開いている。


「犯人が、あの木を登って逃げたなら、優秀な番犬さん達が吠えまくるはずです……あのように」

「亜沙紀!そんなに冷静に言うんじゃねーっ」

「ごめんなさい、ジャッカル。もう戻ってきていいわよ」


亜沙紀が指差した方向には、番犬達に追いかけられているジャッカルの姿。
丸井や赤也、仁王がムービーを撮っていたことは気にしないでおくことにしよう。


「コホン…とにかく、あの優秀な番犬さん達が、侵入者を見逃すと思います?しかも、今から澪ちゃんを誘拐しようとしてる相手を…。

しかも波木さん…貴方、身代金要求の話が出たとき言いましたよね…「何かの間違いでは…?」って…」

「…黒ずくめの男なんて、いないんじゃないっすか?」

「そうだろぃ?」

「誘拐犯さん…プリッ」


真田と幸村に追い詰められてる波木さん。
赤也達3人にそう言われると、地面に膝をつけて香坂さんに謝りはじめた。


「申し訳ございません、旦那様!!」

「…おのれっ…澪はどこだ!」

「ちっ近くのホテルに…っ」


今にも波木さんに殴り掛かりそうな香坂さんをジャッカルと真田で抑えた。

澪ちゃんのいるホテルに、みんなで行こうとした時だった。
亜沙紀は、1人庭から動かないでいた。


「波木さん…貴方、お仲間はいませんよね?」


亜沙紀の言葉に、全員の足が止まった。


「はい、おりませんが…」

「じゃあ、なぜ身代金の要求なんかがあったのでしょう?」

「旦那様っ、お電話が!」


慌ただしく庭にきた香坂邸の使用人。
亜沙紀はその電話を取ると話しはじめた。


「どちら様で?」

「あ?誰だテメェ…」

「ビジネスのお話に来たしがない会社員ですわ…香坂さん、今お手洗いに行ってまして…」

「チッ…まあいい。じゃあしがない会社員さんよォ…社長に3億円用意したか聞いてくれよ」

「…わかりました、少々お待ちくださいな」


そう言って本当に聞きに行ってるような演技を始めた亜沙紀。
その間に、柳が電話に逆探知器を取り付けた。
そしてすぐに、本当の誘拐犯の居場所特定に出始めた。


「…よし、特定出来た。亜沙紀、もういいぞ」


小声でそう伝えた柳。
電話の向こうには聞こえていない。
亜沙紀は口を開いた。


「もしもし?用意は出来てるそうですわ…今からお届けに参ります。

返品不可能な甘美なる痛みと共に…」

「テメェ何者だっ!?」

「ですから、しがない会社員ですわ。

ではまた後で…」


そう言って電話を切ると、使用人に渡す。
亜沙紀は素早く指示を出した。


「香坂さん、車を!」

「ああ!もうバッチリだ!運転は…」

「そこは雅治に頼みます」

「了解ナリ…全員乗りんしゃい」


全員急いで車に乗り込む。
仁王も運転席に座ると、シートベルトも付けずにアクセル全開でかっ飛ばし出した。


「しっかり掴まっときんしゃい」

「かっ飛ばしてから言わないでください!まったく貴方は…」

「プリッ」

「場所は丘上中学校だ。ここの体育倉庫は外にあるから、恐らくそこにいるだろう。確率は97%だ」


亜沙紀達は、月明かりが照らす中、丘上中学校へと向かって行った。




けに参ります




(甘美なる痛みを、)

((犯罪には、それなりに…ね))




081223
九条雨音






あきゅろす。
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