暇人の趣味の部屋一号室(長編小説)
共通ルート 『出会い・朝』
〜通学路〜
「ふわあぁ・・・」
大きな欠伸を手で押さえながら、通学路をゆったりと歩いていく。
今日ははや姉が朝早くに用事があるということで、俺は一人で登校していた。
昨日の疲れが残ってるのか、十分に寝たはずなのだが眠い。
「こんなことなら二次会なんて行くんじゃなかったな・・・」
昨日、内村とスバル、そして俺で二次会と称してカラオケに行ったのだ(他の三人は用事がある、と言って帰った。が、今思えばしっかり休養をとるためだったのだろう)。
スバルと内村の独壇場だったが、中々楽しかった。
・・・まぁ、それはいいんだが。
「ふわぁぁああ・・・」
もう一度大きな欠伸をする。
やばい・・・本当に眠い。
なんか目の前の風景がぼやけてるような・・・
「あ、危ないよ・・・?」
誰かの聞きなれない声が聞こえてくる。
・・・ただ、なんと言ってるのかが分からない。
「聞こえてる・・・?赤信号だよ」
「んー?」
やっべマジで眠いわ・・・
誰かに呼ばれてる気がするんだが――
「危ない!」
「のおっ!?」
ぐい、と後ろに誰かに引っ張られ、その後背中に何か柔らかいものが当たった。
一気に意識が覚醒がした、と思うと目の前を車を通り過ぎていった。
あれ?もしかして俺死にかけてた?
・・・あぶね!?
「危なかったね」
「・・・え?」
聞きなれない――いや、正しくは先ほどまで聞いていたような気がするが――声がした。
「大丈夫だった?余所見しちゃだめだよ」
そこには見慣れない金髪の女の人がいた。
いや、いたというか俺を後ろから抱き寄せていた。
・・・つまり、背後の柔らかい感触は――
「うわあっ!?」
「きゃ!」
慌てて、女の人から離れる。
あ、あぶねぇ・・・もっと早く意識し始めてたらアウトだった・・・
背中に残る感触にどきどきしながら、女の人に向き直る。
「?」
「・・・」
・・・やっべぇ。すげぇ好みなんだけど。
首を傾げる女の人に、なんというか一目惚れに近い感情を覚えた。
金色のさらさらと流れる長い髪に、情熱的な赤い瞳、理知的に整った顔立ち。
そして抜群のスタイル。
・・・カリムさんと会ったときも似たような感想を持ったが、どうやら俺はクールなタイプが好みだったらしい。
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「い、いえ!そんなことは!」
慌てて視線を逸らす。
どうやらじろじろと見てしまっていたらしい。
女の人はそう?と再び首を小さく傾げた。
「えーっと・・・その、助けてもらってありがとうございます。・・・えと」
「フェイト。私の名前はフェイト・テスタロッサ・ハラオウン」
そう言って女の人――フェイトさんがにこりと微笑む。
ぐっ・・・この人まじでやべぇ・・・
自分の顔が真っ赤になってる事が容易に想像できる。
「えと、ハラオウンさん。ありがとうございました」
「フェイトでいいよ。下の名前で呼ばれ慣れてないから」
・・・ところで、フェイトってどこかで聞いたことがあるような気がするんだが・・・どこだっけか?
「それで・・・えと、君の名前は?」
「皆川翼です。呼び方は任せます」
「翼・・・ああ、もしかしてはやての従兄弟?」
「そうですけど・・・」
なんで初対面の人が知ってるんだろう?
はや姉の知り合い・・・なのか?
聞いたことはないけど。
「それじゃあ、星雲学園に行ってるんだよね?」
「ええ、まぁ」
するとフェイトさんは嬉しそうに。
「それじゃ一緒に行こう?時間はあるから、ゆっくり翼の話を聞いてみたいな」
微笑みながらそう言った。
・・・正直、この人は反則だと思う。
俺は収まりつつあった顔の熱が、再び戻ってきたのを感じながらそう思った。
「・・・そんな面白い話ないですよ?」
「そんなことないよ。自分の知らない話を聞くのって楽しいし」
そう言って、フェイトさんが俺の横に並ぶ。
本当に肩がくっつく距離にフェイトさんがいて、いい香りがする。
・・・この人本当は分かってやってるんじゃないだろうな?
「どうしたの?」
「いえ。なんでもないです。そうですねー・・・何から話せば・・・」
――こうして俺は、星雲学園に着くまで自分に纏わるエピソードを話し続けたのであった。
〜校門前〜
「――と、まあそんな感じですね」
「へぇ・・・あ、着いたね」
どれほど話しただろうか?
他になにかあるか、と考えているといつの間にか校門前に到着していた。
時刻は7時58分。
全然余裕の時間だ。
「今日は楽しかったよ翼。また、話を聞かせてくれると嬉しいな」
「・・・はい!今度ははや姉も一緒に」
「ふふ。そうだね」
それじゃ、とフェイトさんが小さく俺に手を振って、大学の校舎のほうへと消えていった。
・・・カリムさんの時も思ったけど、ああいう人達って本当に身近にいるもんなんだなぁ・・・
「ふっふっふ。見ておったぞ我が友よ」
「のわあっ!?」
心臓がドキリと大きく跳ねた。
「う、内村か。脅かすなよ」
「お主も隅に置けぬ男よのう。朝から女子と登校とは」
「た、偶々会っただけだって!つーかお前見てたのかよ!?」
「見たくなくともフェイト殿と一緒にいれば、目立つとういうものじゃ。彼女はこの学園ではもはや女神扱いされておるからの」
「あー・・・」
妙に納得してしまった。
・・・というか。
「何でフェイトさんの事は下の名前で呼んでるんだ?」
「一つ言っておくが我とて完璧な人間ではない。・・・実を言うと、我は押しに弱いのじゃ」
すげー嘘くさいんだが。
・・・まぁでも。普通の男ならフェイトさんに名前で呼んで、なんて言われたら聞いてしまうだろう。
「人生とは上手くゆかぬものじゃの」
「いや、その程度で悟られても」
はぁ、とため息を吐く内村。
「おはよう二人とも。・・・どうしたんだい?」
「おおグリフィス殿。いや、ちょっと今までの歩んできた道を思い返しての・・・」
「・・・えと、何があったんだい?」
「いや、別に何も」
「・・・?」
グリフィスが本当に不思議そうに首を傾げた。
「あ、おはよーございます先輩方!」
と、その空気を一変させる後輩が登場した。
スバルは部活の朝練中なのか、体操服姿だ。
「ちなみにぶるまではないぞ紳士諸君よ」
「誰と話してるんだお前?」
内村が虚空に向かって何かを喋り始めた。
コイツ、時々よくわかんねぇよなぁ・・・
「体操服って事は運動部だと思うけど、スバルって何部なんだ?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?私、陸上部なんですよ」
「ナカジマ(妹)はこう見えて陸上部の期待のホープなのじゃ。こう見えて」
「なんで二回言ったんですか」
スバルがジト目で内村を見る。
なんだかこの二人はこういうノリで一貫してるらしい。
「へぇ、陸上部か。なんかイメージ通りだな。スバルっていつも走り回ってるイメージあるし」
「そうですか?私としては自分はおしとやかだと思うんですけど・・・」
「「それはない(ありえぬ)」」「う〜ん。ちょっと・・・」
「あれ、全員否定?良心であるグリフィスさんまで?」
スバルがとても意外そうに首を傾げた。
うん、コイツにこそ鏡を見ろって言いたい。
「おしとやかっていうのは、カリムさんみたいな人を言うんだよ」
「カリムさん?」
「ああ。金髪でいつも紫色のカチューシャ着けてる大学の先輩だよ。あの容貌なら相当目立つと思うけど」
「・・・う〜ん。見たことあるようなないような・・・」
スバルが腕を組んで考え込む。
・・・あれ?朝練してるスバルなら知ってると思ったんだが。
「知ってますかグリフィスさん?」
「いや僕もちょっと・・・」
「カリム、というとカリム・グラシアのことかの?」
「ああ。内村は知ってるんだな」
「・・・まぁ、の」
内村の歯切れが悪くなる。
俺のほうからはよく見えなかったが、いつもとは違う――複雑な表情を浮かべていたような気がした。
「それじゃ、もう少し私走りこんできますんで!」
そういうと、スバルはだーっと凄い勢いで走り去った。
「朝から元気じゃの。ナカジマ(妹)は」
「そうだね」
走り去るスバルを見届けた後、俺達は校舎の中へと入っていった。
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