暇人の趣味の部屋一号室(長編小説) 共通ルート 『休日3』 〜レストラン前〜 「・・・おお」 内村から来たメールに書いてあった昼の集合場所である、とあるレストランの前に来ると、思わず俺は感嘆の声を漏らしてしまった。 なんというか、そのレストランは所謂ファミリーレストランではなく、高級レストランという分類がなされるものだ。 ・・・はや姉の話は本当だったのか。 「おお。やっと来おったかお主ら」 入り口では、俺達以外の皆がすでに集まっていた。 どうやら俺達が最後らしい。 「悪い悪い。どれくらい待ってたんだ?」 「大丈夫、僕達も着いてそれほど経ってないから。・・・それにしても、大分スバルと仲良くなったみたいだね」 グリフィスが俺とスバルを交互に見て、頷く。 「大丈夫でした?スバル、色々と迷惑掛けませんでした?」 「大丈夫だってティア。ねぇ翼さん?」 「・・・ええ。ソウデスネスバルサン」 「あれー!?」 スバルがとても驚いたように声を上げた。 俺はその反応に、思わず口元が緩んでしまう。 ・・・うん。やっぱコイツはこういう扱いのほうが面白いな。 「スバル。またアンタ・・・」 「ち、違うよ!?私迷惑かけてな・・・かけてませんよね!?」 ぐるんと振り返って、俺にそう尋ねてくる。 「・・・エエ。ソウデスネ」 「ちょ、ちょっと待ってください!?え、あれ!?私何かやらかしましたっけ!?」 「スバル・・・」 「ギン姉まで!?救いは!?救いは無いんですか!?」 「いや、僕に言われても・・・」 スバルがすがるように次々と俺達の顔を見ていく。 ・・・なんとなくだが、ギンガとグリフィスは悪ノリしている気がする。 「ナカジマ(妹)よ。我は信じておるぞ」 「う、内村さん・・・!」 スバルがうるうるとした瞳で内村を見つめる。 ちら、と横目で内村を見ると――その口元にはにやり、と嫌な笑みを浮かべていた。 「お主が何かをやらかしたことを信じて揺るがぬよ」 「・・・この時ほど貴方がむかつくとは思ったことはありませんよ」 ジト目で見るスバルを尻目に、内村がはっはっはっ!と高笑いをした。 てかこいつ下級生にむかつくとか言われてんのに、よく笑えるな・・・ 「それはそうと、ナカジマ(妹)。――年上に向かってその言葉は、少しばかり言い過ぎではないかの?」 「――あ」 内村の眼が笑ってなかった。 前言撤回。コイツ器ちっちぇ。 「い、いえ!これはその・・・あれ?え、今までの、ええ!?」 スバルが面白いくらい動揺していた。 コイツ、なぜか知らんが今日は限りなく運が悪い。 「お仕置きじゃ。ナカジマ下級生」 「それ別の漫画――」 「はい、スバル。こっちに来なさい」 「いたたたたたた!?」 スバルの頭をぐりぐりしながら、ランスターが引きずっていく。 「ち、違うってティア!濡れ衣だって!私、翼さんに迷惑かけてな――」 「例えそうでも、内村先輩の事はどうなるのかしら?」 「・・・すみません」 スバルが観念して引きずられていった。 俺達はただ、スバルの何もかも諦めたような後姿を見送るのだった。 「ふむ。定番パターンじゃな」 「そうね」 「いや、ギンガは自分の妹なんだからもう少し心配したほうがいいと思うんだが」 「あはは・・・」 発端である俺が何故かスバルのフォローに回ってしまっていた。 〜レストラン内〜 ちなみにレストランはマジで高級なレストランで、壁にミ○ュランの星三つの認定書(?)が掛けてあった。 ちなみにここでの公用言語はイタリア語(っぽい気がする・・・)らしく、注文などは全て内村が担当している。 しかも貸切だというのだから、内村の(金の)力は侮り難し。 そして。 「この料理もおいしいねギン姉!」 「ええそうね。食べ過ぎちゃいそう」 (すでに食べ過ぎとるわ(じゃろ)!) おそらくだが、俺と内村のツッコミが心の中でシンクロした。 すでにナカジマ姉妹の座るテーブルの上には、料理の皿が10枚ほど。 うち9枚ほどはナカジマ姉妹によって食べられたものである。 ちなみに二つのテーブルに男子組と女子組で分かれたのだが・・・なんかランスターがかわいそうに思えてきた。 「それで翼殿。何か面白そうな事はあったかの?」 「いや全く」 「じゃろうな。そう簡単に見つかっては面白みがないからの」 じゃあなんで聞いたんだよ。 「それにしてもよく食べるのう・・・ちと我にも気を使ってくれぬかの」 もう一度ナカジマ姉妹のテーブルへと視線を移す。 その料理皿は二倍に増えていた。 「・・・その、内村君。お金、大丈夫かい?」 「うむ。それは大丈夫じゃ。・・・大丈夫なのじゃが、もう少し遠慮をして欲しいの・・・」 失敗じゃったな、と内村がため息を吐いた。 俺とグリフィスはそんな内村を、気の毒そうに見つめているのだった。 〜バス中〜 結局。 今日は特にこれといって成果は無し。 ただただ、俺(スバルにより)と内村(主にナカジマ姉妹)の財布の中身が消えただけだ。 ・・・まぁ、内村にとってはなんでもないのかも知れないが。 そして現在、帰宅途中のバス。 「今日はお疲れ様でした先輩。スバルのお守り、疲れましたよね?」 ランスターの隣で少し密着するように立っている。 バスは大混雑しており、他の奴らがどこにいるのかよく分からない。 「まぁな・・・あんな元気があるとは思わなかったよ」 「ですよね」 あはは、とランスターが笑みを浮かべる。 おそらくだが、苦労を分かち合える人が増えて少し嬉しいんだろう。 「ランスターはいつもスバルと一緒にいるのか?」 「まぁ、学年は違うのでいつもではないですけど。まぁ、昔からの腐れ縁ってやつですね」 「・・・苦労してんだな」 思わず同情してしまった。 「まぁ・・・でも、なんだかんだいって、私スバルのこと好きですから」 「・・・そうか」 照れくさそうに、それでいてはっきりとランスターがそう言った。 ー―と。 「きゃっ・・・!?」 「っと」 突然バスが大きく揺れ、ランスターの体制が大きく崩れた。 それを、何とかランスターを抱き寄せて倒れこむのを防いだ。 どうやらバスが急ブレーキをしたらしい。 『まことにすみません。ただいま飛び出しがあり・・・』 少し遅れてアナウンスが流れる。 その後、バスはゆっくりと走り出した。 「ふぅ・・・危なかったな」 「は、はい。あ、ありがとうございます」 「ったく飛び出しとか危ねぇな・・・」 抱き寄せていたランスターを離して、はぁ、と俺はため息を吐いた。 俺から離れたランスターは、なぜか胸の前に手を置いて俯いている。 怪我でもしたんだろうか? 「ランスター、怪我でも――」 「い、いえっ!大丈夫です!大丈夫ですから!」 怪我したのかと思い手を差し伸べると、ぶんぶんと、胸の前で手を振る。 なぜか顔を真っ赤にしながら。 まぁ、確かに大丈夫そうだな。 「・・・あ、あの。何で皆川先輩は私のことはランスターって呼ぶんですか?」 「え?」 唐突な質問。 思わず俺はランスターに聞き返してしまった。 「だってギンガさんもスバルも名前で呼ぶじゃないですか。何で私だけ名前で呼んでくれないんですか?」 「いや、だってあいつらは苗字が同じだから分かりづらいだろ。基本俺は下の名前で呼んだりしないぞ?」 「・・・だめ、なんですか?」 ランスターが寂しそうな瞳で俺を見つめる。 おそらく、自分が他の女子と区別されているという感じがして嫌なんだろう。 俺はそう思い至り、しばし躊躇した後。 「ティアナ・・・って呼べばいいのか?」 「・・・!はい!」 ランスター――いや、ティアナが嬉しそうに笑った。 夕暮れ時の日差しがあったからだろうか、その笑顔がとても綺麗に見えて思わず胸が高鳴った。 「あはは・・・でもなんか恥ずかしいですね。男の人に下の名前で呼ばれるなんて」 「お前なぁ・・・」 俺だって恥ずかしくないわけじゃないんだぞ、と言おうとして。 「これからスバル共々よろしくお願いしますね。――翼先輩」 ティアナから不意打ちを喰らい、俺は言葉を続けることが出来なかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |